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灯台と聞くと、国が公共のために建てた施設を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。ところが歴史をたどると、灯台は長いあいだ、国ではなく個人が建て、通行する船から料金を取って運営する商売でした。しかもその仕組みは、今の私たちが日々払っているサブスクリプションと、驚くほど似た構造をしています。
灯台という建造物そのものは、紀元前3世紀の古代エジプト・アレクサンドリアに建てられた「ファロスの大灯台」まで遡るとされます。しかし、「個人が特許を得て通行料を徴収し、灯台を運営する」という商売としての仕組みを大きく発展させたのは、近代の英国でした。
本記事では、灯台の歴史から、「様々なサブスク課金がバラバラに存在する」状態が本当は何を生むのかを考えてみます。行き着く先は、今まさに多くの企業や個人が抱えているAIツールの使い方の話です。
【本記事の要点】
- 英国の灯台は、国王から特許を得た個人が、通行する船から料金を取って運営する商売として発展した
- 分立した灯台事業者に別々に料金を払う仕組みは、19世紀に混乱を生み、1836年に一つの機関へ統合された
- 同じ構造は、今の企業や個人がバラバラに契約するAIツールの利用実態にも見て取れる
- あちこちのAIに手を出すことには、料金だけでなく、使いこなすための学びが積み上がらないという見えにくいコストもある
灯台は、実は「サブスク」だった
英国の灯台の多くは、政府が税金で建てたものではありませんでした。国王から特許を得た個人が自費で建設し、その灯台のそばを通る船から通行料(light dues)を徴収して運営費を回収する、れっきとした商売だったのです。
有名な例が、英国南西沖の岩礁に建てられたエディストン灯台です。1698年にヘンリー・ウィンスタンリーが建設に着手し、1705年制定のエディストン灯台法により、ジョン・ロヴェットという人物が通行する船から1トンあたり1ペニーの通行料を徴収する権利を得ました。この灯台は1703年の嵐で一度破壊され、1759年にジョン・スミートン設計の頑丈な石造灯台として建て直されました。
こうした特許は、いわば国が認めた地域独占です。船からすれば、その灯台のそばを通る限り、その特許を持つ個人に料金を払うほかありません。仕組みとしては、今日の「使った分だけ払う」サブスクリプションやクラウドサービスの従量課金と、かなり近い発想だったといえます。
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バラバラな業者が乱立し、船は何度も払うことになった
この「使った分だけ払う」仕組みには、大きな弱点がありました。灯台は英国各地の岩礁や岬に、それぞれ別の個人の特許によって次々と建てられていったため、船は航海のたびに、通り過ぎる灯台の数だけ料金を払う負担を強いられることになったのです。
19世紀初頭には、灯台の運営は混乱した状態になっていました。船は1回の航海で複数の灯台のそばを通ることが珍しくありませんが、そのたびに、それぞれ異なる特許保有者へ、それぞれ異なる料金を払わなければならなかったのです。しかも、料金の徴収には税関職員が関わり、その手数料として徴収額の20%が差し引かれていました。おまけにルールには統一された基準もなく、誰がいくら徴収しているかを一望できる仕組みもない状態でした。
この状態を受けて、1834年、英国議会はこの民間灯台の管理・徴収制度について調査に乗り出します。そして1836年の灯台法により、英国とウェールズの灯台はすべてトリニティ・ハウスという1つの機関の管理下に置かれることになりました。この時点でまだ民間所有だった10基の灯台を買い上げるために支払われた補償金は、118万2,546ポンドという巨額に上ったと記録されています。
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同じ構造が、今のAI利用でも起きている
灯台の話は、遠い昔の英国だけの出来事ではありません。よく似た構造が、今のAIツールの使われ方にも見られます。
複数の調査会社の報告によると、企業の85%が何らかのAIサブスクリプションを持ち、平均で4.5種類のAIツールを契約しているとされます。部門ごとの契約まで含めると、企業によっては20種類を超えるAIツールを利用しているという調査結果もあるようです。ところが、自社が実際に何を契約し何を使っているかを完全に把握できている企業は、38%にとどまるという報告もあります。
AIサブスクリプションの乱立は、コスト面の影響も無視できません。ある調査会社の分析では、企業の月間AI関連支出は1年で63,000ドルから85,500ドルへと、36%増加したとされています。契約がバラバラに分立したAIライセンスは、1つのプラットフォームに統合した場合と比べ、年間・ユーザーあたりのコストがおよそ2倍(1,800〜2,800ドル対800〜1,400ドル)に達するという試算もあるのです。個人でも、複数のAIサービスを併用するユーザーは、月70〜110ドルを3〜5個の重複するサブスクリプションに費やしているとされます。
これらはいずれも学術的な査読を経た研究ではなく、業界の調査会社によるレポートである点は留保が必要ですが、それでも、灯台の時代と同じ「バラバラに払っていて、誰も全体を把握していない」という構造が、姿を変えて今も起きていることは見て取れるのではないでしょうか。
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あちこちのAIに手を出すより、1つを使いこなす方が実は強い
料金がバラバラになる問題だけでなく、もう1つ見落とされがちなコストがあります。それは、ツールを頻繁に切り替えること自体が持つ負担です。
American Psychological Associationが紹介している研究によると、作業の合間にタスクを切り替えるだけで、生産性が最大40%失われることがあるとされています。UCアーバイン大学のグロリア・マーク氏らが行った調査では、何かに中断された後、元の集中状態に戻るまでに平均23分15秒かかるという結果も報告されています。
これをAIツールの使い方に置き換えると、示唆的です。あるタスクにはA、別のタスクにはBというように、その都度最適なAIを選んで渡り歩く姿勢は一見合理的に見えます。しかし実際には、ツールごとに異なる操作方法や癖への慣れ直しが発生し、積み上げてきたプロンプトの工夫や使い方のコツも、ツールをまたぐたびに一部が失われていきます。料金の支払い先がバラバラになるのと同じように、使い手側の学びやノウハウの蓄積先もバラバラになってしまうのです。
だからといって、1つのAIだけに絞ることが常に正解というわけではありません。業務によって向き不向きがあるのも事実です。ただ、灯台が乱立するほど船が自分の負担の全体像を見失っていったように、契約するAIが増えるほど、私たちは料金だけでなく学びやノウハウの蓄積という代償まで見えにくくしています。それこそが「バラバラ課金」の罠です。
「新しいAIが出るたびに手を出す」ことと、「今使っているAIを、もう一段深く使いこなす」こと。どちらに時間を使うべきか、一度立ち止まって考える価値がありそうです。
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まとめ:バラバラな課金が生み出す、隠れたコスト
英国の灯台はかつて、国王から特許を得た個人が、通行する船から料金を取って運営する、今のサブスクリプションに近い商売でした。分立した業者にバラバラに料金を払う仕組みは19世紀に混乱を生み、1836年、ようやく一つの機関へと統合されます。
同じ構造は、今の企業や個人がバラバラに契約するAIツールの使い方にも見て取れます。ツールを頻繁に切り替えること自体にも、料金とは別の見えにくい「学びやノウハウが積み上がらない」というコストがあるのです。
灯台の時代、船は自分がどの特許保有者にいくら払っているか、その全体像をつかめないまま航海を続けていました。今、私たちが契約しているAIツールやSaaSについて、同じことが起きていないか。時々、契約の一覧を眺めてみる価値はありそうです。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。



