2026年賃上げ原資はどう確保する?|銀行が見る中小企業融資需要

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DX投資は本当に後回しになっているのか

DX投資は本当に後回しになっているのか

「賃上げにお金が回り、DX投資が後回しになっている」という見方が広がっています。しかし現場のデータを丁寧に読むと、現実は二項対立より複雑です。この章では、DX投資の現状を整理します。

設備投資・IT投資は止まっていないが「選別」されている

中小企業の設備投資とIT投資は、減速感はあるものの止まってはいません。ただし、内容が明確に選別されています。効率化目的の汎用ツール導入は先送りされる一方、人手不足を直接埋める省力化機械や省人化IT投資は優先的に進められています。理由はシンプルで、賃上げ・採用難の局面では「人を減らせる投資」が最も投資対効果を実感しやすいからです。

補助金活用が「費用補填」から「省力化前提」へ

中小企業庁は「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」を令和7年6月13日に閣議決定し、省力化投資促進プランとあわせて賃上げの持続性確保策を打ち出しています。これにより、省力化投資補助金や賃上げ促進税制と、賃上げ実現の取り組みがひとつの政策パッケージとして整理されました。補助金は単発の費用補填ではなく、「省力化と賃上げを同時に進める前提」で設計される時代に入っているのです。

「DXは終わった」ではなく「DXの問いが変わった」

ここで強調したいのは、DX投資の意味は変質しても役割は終わっていないという点です。経営者が問うべきは「DXを進めるかどうか」ではなく、「どのDXが賃上げ原資を生むのか」です。DX礼賛でも撤退論でもなく、DXを再定義するフェーズに入ったと理解する必要があります。

出典・参照:

DXの目的は「効率化」から「賃上げ原資の創出」へ変わった

ここまでのデータを踏まえると、DXの目的は明らかに変わりつつあります。この章では、その変化を整理し、中小企業が取るべき優先順位を示します。

以前のDXと、これからのDXの違い

DXの目的変化を整理すると、次の表のようになります。

観点以前のDXこれからのDX
主目的業務効率化・デジタル化賃上げ原資の創出・省人化
評価軸工数削減・スピード向上利益率改善・労働分配率の最適化
投資判断流行り・横並び賃上げと返済の両立可能性
銀行評価デジタル化の取り組み生産性向上による返済能力

この表が示すのは、DXの「やる意義」が経営指標と直結し始めたという事実です。経営者が判断すべきは「効率化したいか」ではなく「賃上げを続けるためにこの投資が効くか」です。

省人化と利益率改善を同時に問う

DXの再定義は、現場の感覚とも一致します。賃上げ局面では、同じ売上でも人件費負担が増えるため、利益率は黙っていれば下がります。下がった利益率を取り戻すには、人を増やさず売上を維持するか、価格転嫁で売上単価を上げるしかありません。前者を実現するのが省人化DXであり、後者を支えるのが品質・納期・データ可視化のDXです。

中小企業における現実的なDXの優先順位

すべての中小企業が同じ順序でDXを進められるわけではありません。属人化が強い小規模事業者では、まず業務の棚卸しと標準化が先で、ITツール導入はその後です。人材が薄い現場でいきなり高度なAIを入れても運用できず、現場の抵抗を招き、結果として賃上げ原資の創出にもつながらないでしょう。DXを賃上げ原資創出の手段と位置づける以上、ROI(投資収益率)と運用体制の両面から優先順位を決める必要があります。

賃上げ原資を確保するために経営者が今取るべき行動

賃上げ原資を確保するために経営者が今取るべき行動

ここからは実務に踏み込みます。賃上げ原資の確保は、補助金申請や融資相談で完結しません。経営判断・現場・財務の3つを同時に動かす必要があります。次の4ステップで進めることをおすすめします。

ステップ1:労働分配率と価格転嫁率を可視化する

最初に行うべきは、自社の労働分配率(人件費÷付加価値)と価格転嫁率の数値化です。多くの中小企業で、賃上げの議論が感覚論になっているのは、ここの数値が把握されていないからです。直近3期分の損益計算書から人件費・粗利・付加価値を抽出し、賃上げを5%継続した場合に労働分配率がどう変化するかを試算してください。価格転嫁率は、原材料費・人件費の上昇のうち何%を販売価格に反映できているかを取引先別に整理します。

ステップ2:公的融資制度の活用を検討する

民間金融機関の融資と並行して、公的制度の活用を検討します。日本政策金融公庫は、従業員の賃上げを行う中小企業向けに「賃上げ貸付利率特例制度」を運用しており、一定の要件を満たすと金利優遇の対象になります。経済産業省・中小企業庁の資金繰り支援は、2025年1月以降「人手不足・賃上げ・原材料費高騰」対応へ重点をシフトし、保証制度の枠組みも再編されました。要件や利率の最新情報は、必ず公庫窓口や認定支援機関で確認してください。

ステップ3:DX投資を「賃上げ原資創出」の観点で再評価する

進行中・検討中のDX投資を、賃上げ原資の創出に効くかどうかで再評価します。判断軸は次の3点です。

  • その投資は何人分の業務を省人化できるか(直接的な人件費抑制効果)
  • その投資は粗利率を何ポイント改善できるか(価格転嫁・品質向上の効果)
  • 投資回収期間内に金利上昇シナリオでも返済可能か(DSCRの確認)

この3点で説明できない投資は、補助金が出ても優先度を下げる判断が現実的です。ベンダーと現行の保守契約・運用負荷も同時に棚卸しし、運用しきれない投資は思い切って後ろ倒しにする決断も必要です。

ステップ4:金利上昇シナリオで返済可能性を試算する

最後に、借入金利が現状から1%・2%上昇した場合の支払利息増加額と当期利益への影響を試算します。帝国データバンクの分析にあるとおり、金利1%上昇で企業の7%が赤字化するという数字は、決して他人事ではありません。試算結果をもとに、固定金利・変動金利の選択、繰上返済の方針、必要なら経営者保証ガイドラインに基づく交渉も検討してください。

出典・参照:

まとめ:賃上げを続けるためにDXを再定義する

本記事では、2026年の主要銀行が見ている中小企業融資需要の変化を切り口に、賃上げ原資の確保について整理しました。要点を改めて整理すると、次のとおりです。

  • 2026年春闘で中小企業の賃上げ率5.03%が定着し、資金需要の中心は賃上げ原資の確保へシフトしている
  • 銀行貸出は9カ月連続で伸び率を高め、日銀は銀行の貸出姿勢が慎重化していないと報告している
  • 銀行が見ているのはDX投資そのものではなく、賃上げと返済を両立できる利益創出力である
  • DXは効率化ではなく「賃上げ原資を生む手段」として再定義する段階に入った
  • 経営者は労働分配率の可視化、公的融資の活用、DX再評価、金利シナリオ試算の4ステップで対応すべきである

DX投資と賃上げは対立しません。賃上げを続けるためにDXが必要であり、DXの効果を測る物差しが「賃上げ原資をいくら生んだか」に変わるだけです。

つまり、貴社が次に取るべき一歩は、決して大きなDX投資の決断ではありません。まずは直近3期分の損益計算書を開き、人件費・付加価値・労働分配率を1枚の紙にまとめてみてください。賃上げ原資の議論は、その数字を見たところからしか始まらないのです。

DXportal®編集部

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