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2026年春闘における中小企業の賃上げ率は連合の第2回集計で5.03%に達し、3年連続で5%超という水準が常態化しつつあります。経営の現場では「賃上げをしなければ採用できない」「賃上げをすると利益が消える」「DX(デジタルトランスフォーメーション)投資の予算が圧迫される」という声が同時に聞こえているのではないでしょうか。
企業にとって本当の課題は、DXか賃上げかという二者択一ではなく、賃上げを続けるための原資をどう生み出すかにあります。
本記事では、日本銀行の主要銀行貸出動向アンケートや帝国データバンク、中小企業庁の最新データをもとに、主要銀行が見ている中小企業融資需要の変化を整理し、賃上げ原資を確保するための経営判断の枠組みを示します。読み終えたとき、賃上げとDX投資を対立構造で捉える発想を脱し、「賃上げを続けるためにDXを使う」という新しい優先順位を持てるはずです。
【本記事の要点】
- 2026年春闘の中小企業賃上げ率は5.03%と高水準が定着し、企業の資金需要の中心はDX投資から賃上げ原資の確保へと移っている
- 日銀の金融システムレポートや主要銀行貸出動向アンケートは、銀行が貸出姿勢を慎重化させず、企業の資金需要は増加方向にあると示している
- 賃上げを融資で賄う場合は価格転嫁と生産性向上をセットで設計しなければ持続せず、DXは効率化ではなく賃上げ原資の創出手段として再定義すべきである
- 経営者が今取るべき行動は、労働分配率と価格転嫁率の把握、公的融資制度の活用検討、DX投資の優先順位再設計の3点に集約される
2026年、中小企業の資金需要はどこへ向かっているのか
2026年に入り、中小企業の借入動向は明らかに変化しています。これまで運転資金とDX投資・設備投資が主な需要先でしたが、いまは「賃上げと採用維持のための資金」が増えました。この章では、日銀統計や民間調査の最新データから、その変化を読み解きます。
銀行貸出は9カ月連続で伸び率を高めている
結論から述べると、銀行貸出は2026年に入って加速しています。ニッセイ基礎研究所の集計によれば、2026年1月の銀行貸出残高は前年比4.91%増となり、コロナ禍直後の2021年3月以来の高い伸び率に達しました。
理由は景気拡大ではなく、人件費・原材料費・金利負担の3つが同時に重くなったためです。製造業では原材料の値上げを吸収しきれず運転資金が膨らみ、建設業や物流業では人手不足対策として人件費が増えています。つまり融資需要の増加は、攻めの投資より「事業継続のためのキャッシュ確保」を映している可能性が高いと考えられます。
融資需要は「人件費」と「原材料費」の同時上昇に向かっている
経済産業省は2025年1月以降、中小企業向け資金繰り支援の重点を「売上減少対応」から「人手不足・賃上げ・原材料費高騰への対応」へと再編しました。これは政策側が、中小企業の資金需要は売上減少ではなく構造的なコスト増にシフトしたと判断したことを意味します。
現場で起きているのは、賃上げ原資の不足と、価格転嫁の遅れによる利益率の低下です。融資需要の変化は、まさに中小企業経営者の本音を映す鏡となっています。
「DX投資の波」と「賃上げ原資需要」が並走している
注意すべきは、「DX投資が止まった」わけではない点です。省力化投資や生産性向上のためのIT投資は依然として続いていますが、その目的が「業務効率化そのもの」から「人件費上昇を吸収するための省人化」へ変わりつつあります。DX投資の総額は減っていなくても、投資の意味づけが変わっているのが2026年の特徴です。
出典・参照:
なぜ賃上げ資金が必要になったのか:背景にある構造変化
賃上げが資金需要の中心になった背景には、単年の物価上昇では説明できない構造変化があります。この章では、その構造を3つの切り口で整理します。
賃上げは「福利厚生」ではなく「採用戦略」になった
中小企業にとって賃上げの意味は、ここ数年で大きく変わりました。かつての賃上げは利益を従業員に還元する福利厚生的な性格を持っていましたが、いまは賃上げをしなければ採用も人材維持もできない状況です。連合の2026年春闘第2回集計では、全体平均5.12%、中小企業5.03%という賃上げ率が示されました。比較可能な2013年以降で中小の2次集計が初めて5%台に入った点は、賃上げが一時的な動きではなく構造的な「新しい常態」になりつつあることを示しています。
規模間で広がる賃上げ実施率の差
中小と一口にいっても実態は分かれます。2026年版中小企業白書の概要では、2025年度に正社員へ賃上げを実施した割合は中規模企業の約9割に対し、小規模事業者は約5割にとどまりました。これは小規模事業者ほど価格転嫁が進まず、賃上げ原資を確保できていないことを示しています。賃上げの「やる・やらない」ではなく、「続けられるか」が経営の分水嶺になっているのです。
採用難と人材流出が経営の最大リスクになった
帝国データバンクの倒産集計によれば、2025年度の全国企業倒産は1万425件と2年連続で1万件を超えました。原因として人件費高騰と金利負担増を価格転嫁できない中小零細の資金繰り悪化が指摘されています。現場では「賃上げをしなければ人が辞める、賃上げをすれば利益が消える」というジレンマが広がっています。賃上げはもはやコストではなく、採用戦略・人材防衛策として位置づけ直す必要があります。
出典・参照:
主要銀行は中小企業をどう見ているのか
経営者が今いちばん知りたいのは「銀行は本当に賃上げ資金を貸してくれるのか」という点です。結論を先に述べると、銀行の貸出姿勢は慎重化していません。ただし、見ている指標は確実に変わっています。この章では、日銀の一次データから銀行側の視点を読み解きます。
日銀「主要銀行貸出動向アンケート」が示す貸出姿勢
日本銀行の主要銀行貸出動向アンケート調査は、貸出残高上位50先(国内銀行・信用金庫の貸出シェア約8割)を対象に四半期ごとに資金需要DIなどを把握するもので、銀行の融資現場の温度感を最も正確に示す統計の一つです。
2025年10月の金融システムレポートでは、大手行・地域銀行とも貸出運営スタンスを慎重化させる先はなく、金融機関からみた企業の資金需要は引き続き増加方向と報告されました。銀行は引き続き貸す意思を持っており、その意思は地域銀行レベルでも維持されています。
銀行が今見ている本当の指標は「賃上げ余力」
「貸す意思がある」ことと「どの企業にも貸す」ことは別物です。銀行が中小企業を評価する際の指標は、従来の売上高・自己資本比率に加えて、賃上げ余力・労働分配率・価格転嫁の実績・生産性向上の取り組みへとシフトしています。
銀行はDX投資そのものを評価しているのではなく、その投資が利益を生み、賃上げと返済を両立できるかを見ています。逆に言えば、賃上げ計画と価格転嫁の根拠、生産性向上の数値目標を示せる企業ほど、融資交渉では有利になるのです。
金利上昇局面における銀行と経営者の温度差
帝国データバンクが2026年1月に公表した金利上昇影響調査では、金利上昇について「マイナス影響の方が大きい」と回答する企業の割合が上昇傾向にありました。さらに、2025年版中小企業白書では「借入金利が1%上昇すると企業の7%が赤字に陥る」との分析が引用されています。
銀行は貸出を増やす一方、金利上昇に耐えられる先を選別し始めている可能性があるため、経営者は「借りられるかどうか」だけでなく「金利上昇後も返せるか」を自ら問う段階に入っています。
出典・参照:
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DXportal®編集部
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