【YOKOHAMA CONNECT #26レポート】「2025年の崖」のその先へ!日本の技術力をビジネス変革力に変えるDX未来戦略

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2030年に生き残るのは「自社だけ」を見ない企業

今回のトークセッションの中でも特に議論が深まったのは、2030年を見据えた未来戦略のパートでした。

福田

福田大真近影1

「未来戦略という意味では、デジタルやAIを使うのはもはや当たり前。重要なのは、その次に何をするかです。」

山田

「AIの進化スピードは凄まじいですが、ただツールに乗っかるだけでは置いていかれます。組織としてAIとどう向き合うかというポリシーを持つことが、これからの生存条件になるでしょう。」

町田

「DX推進企業の代表として、山田社長は自社を5年後どう変えていこうと考えていますか?」

山田

YOKOHAMA CONNECT#26山田近影1

「DXportal®というメディアを通じてやりたいのは、自社だけでなく、他社も含めた『エコシステムの変革』です。社会である以上、サプライチェーンという鎖からは逃れられません。自社単独ではなく、関わる企業すべてを含めてDXを実装していく。これを5年計画で掲げています。」

町田

「福田先生の支援先には、どう変わってほしいと考えていますか?具体的な事例があれば教えてください。」

福田

「山田社長が良いことをおっしゃいましたが、『自社だけデジタル化してうまくいきました』というのは、もはやDXとは言えません。顧客、取引先、もっと言えばその家族まで恩恵が波及して初めて、社会的な意味での『DX』と言えるのです。

その好例として、私が審査に関わった経済産業省の局長賞を受賞したある企業の話をしましょう。彼らが評価された最大の理由は、自社のデジタル活用が、取引先や顧客にとってもプラスになる仕組みを作っていたからです。

では、なぜそれができたのか。彼らは徹底して『スピード』と『データ』にこだわっていたからです。現場の改善を『1秒短縮=〇〇円の利益』とすべて金額換算して日々改善し、さらに脳科学を使って従業員の特性を数値化して最適なチーム編成を行っていました。そうした徹底的な内部のデジタル化があったからこそ、外部環境の変化に即座に対応できる『変革のスピード(素早さ)』が生まれたのです。

自分たちは『デジタル化できている』という自覚すらない状態から、わずか半年で局長賞まで駆け上がった。この『圧倒的なスピード』こそが、結果として顧客やパートナーを巻き込み、2030年を生き残るための鍵になると痛感させられました。」

「属人性の排除」vs「経営者の勘」

町田

YOKOHAMA CONNECT#26編集長・町田近影1

「今後、AIが人間を超えるシンギュラリティが訪れるとも叫ばれていますが、そんなデジタルの時代に、あえて企業がビジネスにおいて残すべき『アナログ領域』とはどこにあると考えていますか?」

山田

「私は、人の手でしか判断できない勘だと思っています。音楽や美術のような感性もそうですが、経営における『今は待つべきだ』とか『なんとなく嫌な予感がする』といった感覚。これはAIには代替できない、人間最後の砦です。」

町田

DXというのは本来、データに基づいて効率化し、経営者の勘や経験にとらわれない『属人性を排除した経営』が推奨されているものですよね?そこへ持ってきて、DX推進企業の社長が、あえて『勘が大事だ』と言うのは、ある意味DXの本質を否定しているようにも聞こえますが、そこはどう整理されているんですか?」

山田

「確かにそう聞こえるかもしれません。でも、経営判断をすべてAIに任せきれるかというと、まだ時期尚早です。例えば『今日は一粒万倍日だからイベントをやろう』なんて判断、AIは絶対にしませんよね(笑)。

AIがそのような判断をするとすれば、これまでのデータから『一粒万倍日のイベントは売り上げが良い』といえる場合だけですが、人間ならデータがなくても『縁起がいいから!』とか『なんとなくよさそう』とか、そういう感覚で選んだりします。非合理に見える人間的な『意志』や『ビジョン』が、結果として良い流れを生むこともあるんです。論理だけでは説明できない領域を守ることも、経営者の役割だと思います。」

町田

「なるほど。一見DXと矛盾するような『論理的に説明できない勘』こそが、AI時代における人間の価値になると。福田先生はいかがですか?」

福田

「私も同感です。先日、元マイクロソフトの澤円(さわ まどか)さんがおっしゃっていたのですが、AIはデータを取り込んで生成することはできても、『情熱を持ってゼロからアートを描く』ことはできません。そういう意味で、人間にしかない感性や勘というものがDX]時代においても重要だと思います。」

町田

「人間の脳波や思考パターンをすべて数値化してAIに学習させれば、いずれは『人の情熱』すらも再現できるのではありませんか?」

福田

「それは難しいでしょうね。なぜなら、AIは過去のデータからしか物事を生成できないからです。目の前で起きている『今』の出来事や、これから起こる未知の事象に対して、人間のようにリアルタイムで感じ取り、抽象度を上げて俯瞰(ふかん)することはできません。

ビジネスコンサルタント・細谷功(ほそやいさお)氏の著書『具体と抽象』にもあるように、AIは『具体化』は得意ですが、『抽象化』して物事の本質を捉える力は、人間に分がある。ここがビジネスにおける最後のアナログ領域になるはずです。」

まとめ:不確実な未来を「エフェクチュエーション」で切り拓く

最後に、熱い議論の締めくくりとして、DXに取り組むビジネスパーソンの皆様にお二人からメッセージが送られました。

山田

「DXを進めるにあたって、『とりあえず電子レジを入れよう』『ネット広告を出そう』といった手段から入るのではなく、『そもそも何をやりたかったのか』というゴールを言語化してください。手段に振り回されず、自社のビジョン、アナログな意志を明確にすることが、DX成功への第一歩です。」

福田

「ITが苦手な経営者は、無理せず得意な若手に任せてください。そして、起業家やリーダーの皆様には、『エフェクチュエーション(Effectuation)』という概念をぜひ学んでいただきたい。熟達した起業家が、予測不能な未来に対してどう意思決定し、市場を創造していくか。その思考プロセスは、正解のないDX時代を生き抜くための強力な武器になるはずです。」

YOKOHAMA CONNECT #26登壇を終えて

YOKOHAMA CONNECT#26を終えて登壇者3人での記念撮影

「データドリブンなDX」と「人間的な勘や情熱」。一見相反するこの二つが、実は2030年を生き抜くための両輪であること。そして、自社だけでなくエコシステム全体を巻き込む視座の高さが必要であること。今回のセッションでは、DXの本質が「ツール導入」ではなく「人間と組織の在り方」にあることが浮き彫りになりました。

また、会場で行われたアンケートや、終了後のネットワーキングを通じて感じたのは、オンラインの情報だけでは伝わりきらない「熱量」と、対面で語り合うことの重要性でした。

DXportal®では、WEBメディアとしての情報発信にとどまらず、今回のような「リアルな場」での対話やイベントを、今後も積極的に企画していく予定です。経営者や担当者の皆様が、悩みや知見を共有し、明日の変革への活力を得られるような場を作ってまいります。次回の開催や最新情報は、ぜひ本サイト「DXportal®」でチェックしてください。

TECH HUB YOKOHAMA

TECH HUB YOKOHAMAは、グローバル企業の R&Dや技術者の集積といった横浜の強みを生かし、Clean Tech やモビリティをはじめとする、テック系分野でのユニコーン・クラスのスタートアップ創出を目指す、グローバルを目指すテック系スタートアップに特化した支援拠点です。

  • 正式名称:TECH HUB YOKOHAMA
  • 所在地:横浜市西区みなとみらい2丁目2番1号 横浜ランドマークタワー TECH HUB YOKOHAMA
  • 営業時間:平日10~18時(土・日・祝・年末年始休業)
  • 運営事業者:横浜市経済局及び三菱地所株式会社・横浜未来機構共同企業体(代表企業:三菱地所株式会社)

問い合わせ先:https://techhub-yokohama.com/form/index.html

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、すべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。