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近年、企業の競争力向上や新たな価値創造の手段として、DX(デジタルトランスフォーメーション)への注目が高まっています。しかし、「DXを進めたいが、具体的に何から始めればよいのか分からない」という悩みを抱える中小企業の経営者や担当者の方も少なくないでしょう。
そうした中で、東京都はDXの重要な要素であるAIの活用について、「東京都AI戦略」という具体的な方向性を示しました。この戦略は、都民サービスの質向上と都庁の業務生産性向上を目指し策定されたものです。この戦略の特徴は、単に最新技術を導入するだけでなく、都民や企業、さらには日本全体を見据えた長期的な視点に立っている点にあります。
本記事では、東京都のAI戦略の概要から、中小企業が自社のDXを推進する上で参考となるポイントを解説します。この記事を読めば、東京都の取り組みを通し、漠然としていたDXの姿が明確になるでしょう。また、この取り組みを自社に置き換えて考えることで、自社の未来を切り拓くヒントを得られるはずです。
【本記事の要点】
- 東京都AI戦略の「つかう・聴く・つくる」の3要素によるDX経営の体系化
- ローコード・ノーコードツール活用によるAI利活用の内製化
- デジタルガバナンス・コード3.0に準拠したリスク管理体制の構築
東京都AI戦略が描く3つの「力」とは

東京都のAI戦略は、AIをめぐる活動を「つかう」「聴く」「つくる」という3つの「力」に分類し、それぞれの強化を目指しています。この考え方は、DX推進に取り組む中小企業にとっても非常に有効です。
1.AIを『つかう』力:日々の業務を効率化する
「AIを『つかう』力」とは、既存の業務プロセスにAI技術を導入し、効率化やサービス向上を実現する能力のことです。東京都では、全庁で文章生成AIの利用環境を整備し、補助金審査や内部業務の自動化を進めています。これにより、業務時間の30%以上の短縮を目指し、将来的な公務員人口の減少にも対応しようとしています。
これは、中小企業のDXにも直結する考え方です。例えば、これまで手作業で行っていた顧客データの入力作業をAIで自動化する、あるいは問い合わせ対応にチャットボットを導入するといった施策がこれに当たります。AIを活用して定型業務を効率化すれば、従業員はより創造的な業務に時間を割くことができ、企業の生産性向上に貢献するでしょう。
2.AIで『聴く』力:顧客の声を経営に活かす
「AIで『聴く』力」とは、SNSや各種デジタル媒体から市民の意見をリアルタイムで収集・分析し、政策に反映する「デジタル広聴(ブロードリスニング)」の仕組みを構築することです。東京都では、データバイアスやプライバシー保護にも配慮しながら、都民の声を行政に反映させようとしています。
この考え方を中小企業に置き換えると、顧客の声を聞き、それを経営戦略に活かすことと言えます。AIを活用した顧客分析ツールを導入すれば、顧客のレビューやSNSの投稿を自動で分析し、自社製品やサービスの改善点、市場のニーズを迅速に把握することが可能になります。これにより、顧客満足度を高め、新たなビジネスチャンスを創出できるでしょう。
3.AIを『つくる』力:新たな価値を創造する
「AIを『つくる』力」は、新しいAI技術やサービスを自社で開発し、産業の基盤を強化する能力のことです。東京都は、生成AIプラットフォームの構築やデータセンターの整備といったインフラ投資を通じて、単に行政の業務を効率化するだけでなく、全国のモデルとなるような成功事例を生み出すことを目指しています。
特に注目すべきは、専門知識がなくてもAIアプリを開発できる共通基盤の整備にむけた取り組みです。これは、プログラミングやAIの専門家でなくても、自社の業務に合ったAIツールを比較的簡単に作れる環境を提供しようというものです。この取り組みは、技術的なハードルが高いと感じていた多くの中小企業にとって、非常に画期的な動きといえるでしょう。
とはいえ、「AIを『つくる』力」という言葉を聞くと、中小企業にとっては縁遠いものに感じるかもしれません。しかし、この考え方は、自社の強みとAI技術を組み合わせることで、競合他社にはない独自の価値を創造する上で非常に重要です。
例えば、既存のAIツールを自社の特定の業務に合わせてカスタマイズしたり、他社と連携して新たなソリューションを開発したりすることが考えられます。東京都の「AIを『つくる』力」は、こうした企業のイノベーションを後押しするための土壌作りと捉えることができるでしょう。
中小企業向けAI人材育成施策から学ぶDX推進のヒント

東京都は、AIを「つかう」「聴く」「つくる」の3つの力を高めるため、人材育成にも力を入れています。これは、DXを推進する上で避けられない人材不足という課題に対し、中小企業が取るべき対策のヒントに満ちています。
資金提供と成長支援でイノベーションを後押し
東京都は、AIスタートアップ向けの専用ファンドを創設し、資金提供や成長支援を行っています。これには、リスクの高い初期段階のスタートアップを支え、イノベーションを促進する狙いがあります。
中小企業は、この考え方を自社のDX投資に適用できます。例えば、AIツール導入に際して国の補助金制度を活用したり、外部の専門家と協業することで、初期投資のリスクを軽減しながらDXを進めることが可能です。東京都が提供する「中小企業向けAI補助金」のような制度も積極的に活用することが推奨されます。
学習機会の提供で社内のAIリテラシーを向上
東京等は、都立大学でのAI・データサイエンスのカリキュラム拡充や、オンラインでの無料公開講座の推進といった重要な施策も行っています。これにより、社会人や非情報系の学生もAIについて学ぶ機会を得られます。
これは、中小企業が社内のAI人材を育成する上で参考になるでしょう。高価な研修プログラムに頼るだけでなく、オンラインの無料講座や、社内で自主学習グループを設けるなど、低コストで従業員のAIリテラシーを高める方法を検討できます。従業員一人ひとりがAIを理解し、活用できるような環境を整えることが、全社的なDX推進には不可欠です。
実践機会の創出で即戦力を育成
東京都は、AIスタートアップでのインターンシップ支援事業を拡充し、若者や社会人に実践的な体験機会を提供しています。これは、学校教育だけでは得られない実践力を養うことを目的としています。
中小企業も、この考え方を自社の採用や人材育成に取り入れるべきです。例えば、自社でAI関連のプロジェクトを立ち上げ、社内公募で参加者を募ることで、従業員に実践的な学習の場を提供できます。また、外部のコンサルタントや専門家を招き、実践的なワークショップを開催するのも有効な手段と言えるでしょう。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。