【事例で学ぶ】DXの「仕組み化」で失敗しない方法!陥りがちな落とし穴と成功への道筋

公開日 : 

share :

デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する上で、業務の「仕組み化」は重要な要素の一つです。デジタル技術を活用し、業務プロセスを標準化・自動化することで、生産性向上やコスト削減といった効果が期待できます。

しかし、仕組み化を進めさえすればDXが成功するわけではありません。むしろ、目的を見失った仕組み化や、現場の実情を無視した導入は、思わぬ落とし穴となり、DXの失敗を招くことさえあるのです。

本記事では、具体的な事例を交えながら、DXにおける仕組み化で陥りやすい失敗パターンとその原因を解説します。そして、失敗を避け、着実に成果を上げるための成功への道筋を、中小企業の視点から具体的に示します。

貴社が、DXの仕組み化で失敗しないためのヒントとして参考にしてください。

なぜDXで「仕組み化」が注目されるのか?

なぜDXで「仕組み化」が注目されるのか?

多くの企業、特にリソースに限りがある中小企業にとって、仕組み化は魅力的な響きを持っているでしょう。

日々の業務を効率化すると同時に、特定の従業員に依存する属人化を解消し、誰が担当しても一定の品質を保てるように業務を標準化する。これらは、デジタル技術を活用した仕組み化によって実現が期待される代表的なメリットです。

仕組み化の具体的な事例としては、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)による定型作業の自動化や、SFA/CRM(営業支援/顧客関係管理システム)による顧客情報の一元管理と営業プロセスの標準化などが挙げられます。

これらの仕組み化は、DXを構成する要素の一つであり、業務効率化や生産性向上に直結しやすい施策です。そのため、DX推進の第一歩として、あるいは具体的な成果を早期に出すための手段として、多くの企業が仕組み化に注目が集まるのは自然な流れかもしれません。

しかし重要なのは、仕組み化はあくまで「DXという大きな目的を達成するための手段にすぎない」ということです。この位置づけを見誤ると、次章のような落とし穴にはまってしまう危険性があるのです。

DXにおける「仕組み化」の陥りがちな落とし穴

DXにおける「仕組み化」の陥りがちな落とし穴

ここでは、DXにおける仕組み化を進める上で、多くの企業が陥りやすい失敗パターンを、具体的な事例の形で見ていきましょう。

落とし穴1:目的の欠如|「仕組み化」自体が目的化する

ある中小企業では、「競合も導入しているから」「最新の技術だから」という理由で、高機能なプロジェクト管理ツールを導入しました。しかし、導入前に「このツールを使って具体的に何を解決したいのか」「どのような状態を目指すのか」という目的が定まっていませんでした。

結果として、一部の従業員が試しに使う程度で定着せず、当然ながら、導入効果はほとんど見られませんでした。

これは、仕組み化やツール導入そのものが目的になってしまった典型的な失敗例です。

DXは本来、経営課題の解決や競争優位性の確立、新たな顧客価値の創造といった、より上位の目的を達成するために行われるべきです。手段であるはずの「仕組み化」自体が目的化してしまうと、投資対効果が見合わないばかりか、現場の混乱を招くだけに終わる可能性があります。

落とし穴2:現場を無視|トップダウン導入の弊害

ある企業で経営層がトップダウンで決定した新しい経費精算システム。導入はスムーズに進みましたが、実際に利用する現場からは「従来のやり方より入力項目が多くて面倒」「スマートフォンの小さな画面では操作しにくい」といった不満が噴出しました。

結局、多くの従業員がシステムの利用を避けて、以前の方法で申請を続けるケースが後を絶たず、経理部門の負担はむしろ増大してしまいました。

どんなに優れた仕組みやシステムも、実際にそれを使う現場の従業員に受け入れられなければ意味がありません。

導入プロセスにおいて、現場の意見を聞かずに強引なトップダウン方式で進めてしまうと、現状の業務フローとの間にギャップが生じたり、操作性の問題が発生したりします。結果として、従業員のモチベーション低下やシステムの形骸化を招いてしまうのです。

落とし穴3:部分最適の罠|全体像なき仕組み化

ある製造業の会社では、営業部門は顧客管理のためにA社のCRMを、製造部門は生産管理のためにB社のシステムを、それぞれ独自に導入・運用していました。

システムの導入により、各々の部門内での業務は効率化されました。その一方で、部門間でデータを連携させる仕組みがなかったため、営業が見ている顧客情報と製造が見ている生産状況がリアルタイムで同期されないという問題が生じてしまったのです。その結果、納期回答の遅れや、在庫情報の不一致といった問題が発生し、会社全体としての最適化は進みませんでした。

各部門がそれぞれの判断で最適なツールや仕組みを導入すること自体は、一概に悪いこととは言い切れません。しかし、会社全体の業務フローやデータ連携といった全体像を見据えずに「部分最適」な仕組み化を進めてしまうと、部門間のサイロ化(孤立化)を助長し、かえって非効率を生み出すことがあるのです。結果として、データが分断されてしまい、一元的な経営判断が難しくなるリスクが生じます。

落とし穴4:柔軟性の喪失|変化に対応できない仕組み

ある小売企業では、厳格なルールに基づいて在庫管理と発注業務を完全に自動化するシステムを構築しました。このシステムの導入により、平常時の運用は効率化されました。

しかし、予期せぬ需要の急増や、サプライチェーンのトラブルといった市場環境の大きな変化が起きた際に、この厳格さが裏目に出てしまいシステムが柔軟に対応できませんでした。このシステムは、人為的なミスを排するために、人間が介在して判断・調整する余地がほとんどない仕組みになっていたのです。そのため、緊急時に対応が後手に回り、大きな機会損失や過剰在庫を招いてしまったのです。

仕組み化は業務を標準化し、効率化する効果があります。一方で、過度に進めると業務プロセスを硬直化させてしまう恐れがあります。

ビジネス環境が目まぐるしく変化する現代において、一度作った仕組みが永続的に最適であり続ける保証はありません。変化に柔軟に対応できない、あるいは改善のサイクルを回しにくい仕組みは、長期的には企業の競争力を削いでしまう可能性すらあるでしょう。

失敗しない!DX「仕組み化」成功への5ステップ

失敗しない!DX「仕組み化」成功への5ステップ

では、どうすれば「落とし穴」を避け、「仕組み化」を通じてDXを成功に導くことができるのでしょうか。これまで解説した失敗の原因などを踏まえて、仕組み化を成功へ導くための具体的な道筋を5つのステップで示します。

ステップ1:明確な目的設定

全ての出発点は、「この仕組み化によって、何を達成したいのか?」という目的を明確にすることです。それは特定の業務時間を〇%削減することかもしれませんし、顧客満足度を〇ポイント向上させることかもしれません。あるいは、新しいビジネスモデルを実現することかもしれません。

まずは、経営課題や自社が目指す将来像を整理したうえで、仕組み化の目的と、達成度を測るための具体的な指標(KPI)を設定しましょう。

ステップ2:徹底的な現状理解と課題特定

目的が定まったら、次に現状の業務プロセスを徹底的に可視化し、どこに課題があるのか、どこを仕組み化すれば効果が高いのかを特定します。

このプロセスでは、実際に業務を行っている現場の担当者へのヒアリングが不可欠です。業務フロー図を作成したり、現場の作業を観察したりするなど、地道な作業を通じて、データだけでは見えない実態やボトルネックを把握することが重要になります。

ステップ3:スモールスタートと効果検証

最初から全社規模で大規模な仕組みを導入しようとすると、リスクもコストも大きくなります。まずは、特定の部門や業務範囲に限定して「小さく」仕組み化を試してみるスモールスタートが賢明です。

そして、導入後には必ず効果測定を行い、当初設定したKPIが達成できているか、現場の使い勝手はどうかなどを検証します。その結果を踏まえて改善を加え、効果が確認できれば、徐々に対象範囲を広げていくというアプローチが、失敗のリスクを最小限に抑えます。

ステップ4:現場を巻き込む推進体制

DXや仕組み化は、情報システム部門や経営企画部門だけが進めるものではありません。実際に仕組みを利用する現場の従業員を、企画段階から巻き込むことが成功の鍵となるのです。

プロジェクトチームに現場の代表者を入れたり、定期的に進捗状況を共有し、意見交換の場を設けたりすることで、「自分たちのための改革」という当事者意識を醸成できます。

経営層がDX推進への強いコミットメントを示すことも、現場の協力を得る上で不可欠な要素です。

ステップ5:継続的な改善と柔軟性の確保

「仕組みを導入したら終わり」、ではありません。ビジネス環境や顧客ニーズは常に変化しています。一度構築した仕組みが、将来にわたって最適であり続けるとは限らないからです。導入後も定期的に効果を測定し、利用状況や外部環境の変化に合わせて、仕組み自体を見直し、改善していく姿勢が重要です。

また、システムやルールを設計する際には、ある程度の「遊び」や「調整しろ」を持たせ、予期せぬ変化にも対応できる柔軟性を確保しておくことも考慮すべきでしょう。

まとめ:事例に学び、「失敗しない仕組み化」でDXを成功に導く

本記事では、DX推進における仕組み化で陥りやすい落とし穴と、それを回避し成功へ至るための道筋を、事例を交えながら解説しました。

仕組み化はDXの有効な手段です。しかし、目的を見失ったり、現場の実情を無視したりすれば、容易に失敗へと繋がってしまうでしょう。

事例で見たように、ツール導入ありきではなく、まず自社の課題は何か、顧客にとっての価値は何かを問い、現場の声に耳を傾けることが重要です。成功への道筋は、ある意味では地道なステップの積み重ねです。

  • 明確な目的設定
  • 現状の深い理解
  • スモールスタート
  • 現場の巻き込み
  • 継続的な改善

これらのステップを着実に実行することで、仕組み化は真にDXを加速させる力となります。

本記事で紹介した落とし穴の事例と成功への道筋が、貴社のDX推進において「失敗しない仕組み化」を実現するための一助となれば幸いです。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。
最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。
2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ