【スポーツ業界のDX事例】新型コロナで変革を余儀なくされるスポーツビジネスのあり方

【スポーツ業界のDX事例】アフターコロナで変革を余儀なくされるスポーツビジネスのあり方

現在、スポーツ産業ではDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)におけるICT(インフォメーション・アンド・コミュニケーション・テクノロジー:情報伝達技術/以下:ICT)の利活用が進んでいます。

スポーツ産業におけるICTの利活用拡大は世界的な動きとして注目されています。

日本においても注目度は高く、2020年度においては10.9兆円だったスポーツ庁の予算規模は、 デジタル技術の開発や導入を進めていく中で、 2025年度には15.2兆円まで拡大すると試算されています。

今回は、今後ますます注目されるスポーツ業界のDXについてご紹介します。具体的には、世界最高峰のスポーツにおけるファンビジネスや地域との関わり、メンタルケアなど、DXによる変革を遂げている事例を解説します。

アフターコロナにおけるスポーツビジネスのあり方とは?

アフターコロナはスポーツのあり方を変えている

周知のとおり、新型コロナウイルスの感染拡大は、スポーツビジネスのあり方を大きく変えてしまいました。

政府のガイドラインによれば、緊急事態制限発出時においては「イベントは5000人以下、かつ収容定員の50%以内の参加人数に限る」と定められています。まん延防止等重点措置の対象地域でも収容上限は5,000人以下、それ以外の地域においても「5,000人または収容定員50%以内のいずれか大きい方」と厳しい制限が設けられています。

そのため、多くのスポーツ競技は、ガイドラインに従うと最大でも試合会場のキャパシティの半分しか観客を入れられません。 そのため、観戦チケットの売り上げ収益は大幅に落ち込んでいます。また、フードやアルコールを楽しみながら試合観戦するというスタイルもできなくなったため、飲食などの販売面でも大幅な収益減となっています。

仮に、宣言が解除されたとしても、すぐに収容上限が引き上げられるわけではなく、政府は段階的に規制を緩和していく方針です。

感染拡大期における収容人数の制限などはスポーツビジネスにとって深刻な問題ですが、それ以上に大きな影響を与えかねないのは、コロナ禍が人々の意識に与えた影響です。

規制が緩和されたとしても、アフターコロナにおいては「密」や「接触」が忌避されることは間違いありません。そのため、これまでのスポーツビジネスのあり方では利益を生むことは難しくなる懸念があります。

観客が安心してスポーツを楽しめる環境を作るための変革が求められており、そのためにはDXが必要不可欠です。

DXによる変革を模索するスポーツビジネス

DXによる変革を模索するスポーツビジネス

スポーツ産業のDXにおけるICTの利活用で、注目を浴びているのがスポーツテック分野です。

【スポーツテック】

スポーツとテクノロジーを組み合わせた造語で、競技や判定、観覧・観戦の環境改善、新たな用品・グッズの開発、選手のサポートなど、スポーツに関わるさまざまなことに導入される最新のテクノロジーを示す用語。

本稿では、DXによるICTの利活用が進展しているスポーツビジネスに焦点を当て、以下の内容を解説いたします。

1.リーグ全体でDXを推進するリーガ・エスパニョーラ

2.ファンの楽しみ方を変えたツール・ド・フランス

3.スポーツメンタルを可視化するアシックス

4.スポーツ業界の経営課題を解決するWiz

スポーツ産業の今を読み解き、自社のDX導入についてご参考ください。

1.リーグ全体でDXを推進するリーガ・エスパニョーラ

リーグ全体でDXを推進するリーガ・エスパニョーラ

スペインのサッカーリーグ「リーガ・エスパニョーラ」は2016年よりMicrosoftと提携してDXを推進してきました。各クラブに対しては、DXの重要性とクラブの競争力にもたらすインパクトを伝え、以下のツールを提供しています。

・クラブのアプリやウェブサイトの構築を支援するためのプラットフォーム

・クラウド上の試合データを分析するためのサンドボックスツール(コンピューター上に設けられた安全な仮想環境)

・試合中のパフォーマンスをリアルタイムに分析できるツール「Mediacoach」

各クラブも積極的にICTを活用しています。

セビージャFCではデータ駆動型意思決定を重視しており、R&D(リサーチ・アンド・デベロップメント:研究開発)部門を設立し、数学や物理、統計学などの専門家が選手のパフォーマンス等のデータを分析。

さらに、人事雇用プロセスを簡素化するために自社でアプリケーション開発しています。

また、地域との連携によるイノベーション向上を図るクラブもあります。

バレンシアCFは地域のNPO「スタートアップバレンシア」と連携し、起業家コミュニティ「VCFイノベーション・ハブ」を開始しました。

VCFイノベーション・ハブは、バレンシアCFのホームスタジアムである「メスタージャ・スタジアム」を利用し、市内のスポーツとテクノロジー分野の起業家向けにスペースを提供しています。

他にも、無観客のスタジアムの雰囲気を盛り上げる施策としてバーチャル音声を活用。

パートナーシップを締結しているEA Sportsの試合音声データベースを活用すれば、無観客の試合でもサポーターの歓声などを試合に合わせてブロードキャスティングできます。

加えて、ワクチン接種証明や陰性証明などをチケットに組み込むソフトウェアを開発する動きもあります。

リーガ・エスパニョーラはリーグ全体でのDX導入のみならず、各クラブが独自にR&Dなどのデジタル部門の設置や地域の企業コミュニティへの支援などを行い、サッカー産業だけでなく他産業も含めた地域全体のイノベーションエコシステムの創出にも貢献しているのです。

2.ファンの楽しみ方を変えたツール・ド・フランスのDX

毎年7月にフランス及び周辺国を舞台にして行われる自動車ロードレース「ツール・ド・フランス」では、NTTデータの子会社であるDimension Dataがデータ提供によるファンエンゲージメントの向上に取り組んでいます。

自転車は非常に速い速度で山間部を駆け抜けていくので、リアルタイムでの配信は困難でした。

従来の技術では、各選手の位置関係やコースの状況など詳細なデータを収集・処理することが不可能であったため、沿道で直接観戦できるファンを除き、リアルタイムでレースを楽しむことができなかったのです。

しかし、2019年より170名以上の参加選手すべての自転車にセンサーデバイスを取り付け、自転車間で相互に通信を行い、競技中の情報を毎秒取得し、それを利用した配信を開始しました。

WWANとなるメッシュネットワーク(デバイスのグループが1つのWi-Fiとして動作する仕組み)を作り出し、データを集団で共有し中継用の自動車やヘリコプターとつなげており、そこから情報をすべてクラウドにアップロードして処理します。

取得したデータは、インフォグラフィックス(様々な情報を一つにまとめて図形化したもの)でビジュアル的にわかりやすく加工。このデータは、SNSやWebサイトを通して世界に向けリアルタイムに配信され、ファンたちを魅了しました。

選手の走るコースと周辺地形が3次元レンダリング画像により示されたことで、ファンはTVではつかみきれない坂の厳しさを体感的に経験することができるようになりました。これが、過酷なレースを戦う選手たちへの共感を呼び、ファンはさらにレースにのめり込んだのです。

さらに、ビジュアル的に優れたデータの配信を既存のファンがTwitterなどのSNSでRTしたり、コメントを付けて拡散したことで、さらに多くの視聴者の関心を生み出し、新たなファンをツール・ド・フランスに惹きつけました。

その結果、SNSのフォロワー数は160%近く増え、オフィシャルWebサイトの訪問数も37%上昇。アプリのDLも30%増加し、ビデオは以前の10倍となる7100万人が視聴しました。

また、リアルタイムに配信・公開されたデータはインターネット上でいつでも閲覧可能なため、ツール・ド・フランス後もファンや視聴者たちがレースや選手について語り合う機会を提供しました。つまり、レース後のファンエンゲージメントを高める副次的効果も生み出したのです。

3.スポーツメンタルを可視化するアシックス

アシックスジャパン株式会社が行った「新型コロナウイルス感染症影響下におけるランニング意識調査」によると、週に1度以上ランニングをする人がコロナ以前に比べて118%増加しており、「精神面で役立った(41%)」「運動によって気分が晴れ、自分自身をコントロールできる(65%)」というポジティブな回答が得られました。

アシックスは、このような脳科学を用いて被験者の運動データなどを分析し、スポーツが感情と認知能力に対してどのように貢献したかを定量化し、可視化するシステム「マインドアップリフター」を開発しました。

マインドアップリフターの調査では、20分間のランニングをすると平均して12.3%精神的向上が確認されました。

さらに、運動習慣のない人の方が倍近く伸びたという結果も出ています。

一方で、運動による変化はポジティブなものだけではなく、長く運動しすぎることによる疲労感でストレスが生じることもあります。これらのデータは、メンタルヘルスに効果的な運動の方法や時間など、アスリートではない人にとっても実践的な情報を与えてくれます。

このシステムは、2021年6月に実証実験を開始したばかりなので、利用者が増えればその分より精度が上がっていくでしょう。

マインドアップリフターはフィジカルなパフォーマンスを向上させるデータの研究だけでなく、メンタルコントロールに最適な運動メソッドや運動頻度、運動時間などの研究にも大きな期待が寄せられています。

4.スポーツ業界の経営課題を解決するWiz

近年、スポーツ業界において普及してきているDXとしてSaaS(クラウドで提供されるサービスとしてのソフトウェア)があります。

SaaSを活用したことで、試合全体や選手から取得できる膨大なデータを蓄積し、分析することが可能になりました。これらの分析データを、チームの戦術や選手のサポートに活かすことで、チームの勝利や選手のパフォーマンス向上につながることが期待できます。

しかし、試合での勝利を目的としたスポーツのDXが加速してきている一方で、クラブ経営全体のDXはこれからという段階です。 

こうした中、株式会社Wizは、2020年4月よりスポーツ業界の経営課題を解決するオンラインサービス「Wiz スポーツクラウド」を開始しました。

Wizスポーツクラウドは、補助金・助成金の専門家が多く在籍しているWebメディア「補助金ポータル」と連携し、クラブ運営のサポートをしています。

また、選手・コーチ・トレーナー・スタッフの選考会の実施や、Jリーグ参入チャレンジを体験できるインターンシップの開催など、プロ選手のセカンドキャリアを含めて、スポーツ業界を支える側として働きたい人へのセミナー開催や情報提供なども行っています。

さらに、2021年2月からWizスポーツクラウドは自らプロバスケットボールチームの運営に乗り出し、オーナー企業として「鹿児島レブナイズ」を立ち上げました。

まず、クラブを地域から盛り上げる「地域×スポーツ×DX」として、「レブナイズWi-Fi」のサービスを開始。

他にも、WizのDXサービスを鹿児島の企業・店舗に集客やコスト削減施策といった面で提供し、導入後の収益をクラブに還元していく新しいビジネスフローを計画しています。

Wizはこうしたデータや知見の蓄積をもとに、プランニング、実施、評価と体系化させることで、DXを通してスポーツ業界、クラブ経営の課題や問題の解決に取り組んでいるのです。

まとめ

スポーツ産業におけるファンビジネスやメンタル事業、地域の活性化例を解説いたしました。

どの企業や分野においても共通している点は、あらゆる項目のデータ化とその分析です。

いま、テクノロジーの進化とスポーツ産業に携わる人々の情熱との相乗効果により、新たなる「スポーツの面白さ」が生み出されています。

コロナがもたらしたのは危機的状況だけでなく、DXによる新たな価値創造のチャンスであることも間違いありません。

今後のスポーツ産業がDXを経て提供する新たな体験や価値は、ビジネス規模を従来よりも拡大させ、スポーツを通じた豊かな体験をもたらすでしょう。

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DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

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