DXを加速するOSS(オープンソースソフトウェア)活用術|業務効率化から運用管理まで「注目されるOSSとはなにか?」

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DX(デジタルトランスフォーメーション)推進において、システムの導入コストと構築スピードのバランスは、多くの経営者やIT担当者が直面する課題です。

「高額な商用ソフトは導入ハードルが高い」

「自社の業務に合わせた柔軟なカスタマイズがしたい」

こうした悩みを解決する手段として、現在「OSS(オープンソースソフトウェア)」が再評価されています。

本記事では、IT業界で30年にわたり企業のシステム導入を支援してきた筆者の視点から、OSSを活用するメリットと、実務で即戦力となる具体的なツールを厳選して解説します。コストを抑えつつ、着実にDXを前進させるための選択肢としてお役立てください。

OSSとは何か?なぜ注目されているのか

OSSとは何か?なぜ注目されているのか

OSSとは、ソースコードが公開され、誰でも利用・改良・再配布できるソフトウェアのことです。代表例としてLinuxやApacheがありますが、近年は業務アプリやデータ分析、マーケティングなど、企業のDXに直結する分野でもOSSが急速に普及しています。

OSS導入のメリット

OSSを活用することで、企業は以下のメリットを享受できます。

  • ライセンス料金の抑制:商用ソフトウェアに比べ、初期投資を大きく抑えることが可能。浮いたコストを、業務分析や運用体制の構築など、DXの本質的な部分に投資できる
  • 柔軟なカスタマイズ性:ソースコードが公開されているため、ブラックボックス化している商用製品とは異なり、自社の独自業務に合わせて機能を追加・変更することが可能
  • コミュニティによる継続的改善:世界中の開発者が開発・改善に参加しているため、技術の陳腐化が遅く、最新技術への対応が早い傾向にある
  • ベンダーロックインの回避:特定のベンダーの製品や仕様に依存せず、自由度の高いシステム構築が可能

市場のニーズを取り入れ日々改良されていく商用サービスを否定するわけではありませんが、私たちはDX推進事業者ですので、お客様の貴重なコストを丁寧なヒアリングや業務分析、運用開始後の継続的な支援にできる限りお使いいただきたいと考えています。

DXを加速する製品6選

ここからは、DXの観点で特に注目すべきOSS製品を6つのカテゴリで紹介します。

1.ノーコード開発ツール:Pleasanter(プリザンター)

現場主導のデジタル化を実現する手段として、国産OSSの「Pleasanter」は極めて有効な選択肢となります。多くの企業で散見される「Excelによる情報管理の限界」を打破し、誰でも簡単に業務アプリを作成できる環境を構築します。

  • 特徴: マウス操作を中心に、顧客管理や案件管理、工数管理などのアプリケーションをプログラミングの知識なしに開発可能
  • DX効果: 現場の担当者が自ら業務改善を推進できるため、IT部門の負荷を軽減しつつ、圧倒的なスピード感でデジタル化を遂行できる
  • ポイント: クラウド版に加えてオンプレミス(自社所有のサーバー運用)環境でも利用可能。日本発のソフトウェアであるため、サポート体制やドキュメントが日本語で完結している安心感がある

2.データ活用:Metabase(メタベース)

DXの本質は、蓄積されたデータを活用して経営判断の精度を高めることにあります。OSSのBI(ビジネスインテリジェンス)ツールである「Metabase」は、専門知識を持たない社員でもデータベースから必要な情報を抽出できる環境を提供します。

  • 特徴: 直感的なUI(ユーザーインターフェース)を備えており、SQL(データベース操作言語)を記述することなく、クリック操作のみで高度なグラフやダッシュボードを作成できる
  • DX効果: 営業成績、在庫状況、顧客動向をリアルタイムで可視化する。現場の担当者が自ら分析結果を得られるため、IT部門へ依頼する待機時間を削減し、迅速な経営判断を可能にする
  • ポイント: セットアップが容易であり、既存のデータベースと接続するだけで即座に運用を開始できるため、スモールスタートを検討する企業に適している

3.マーケティング:Mautic(マウティック)

非対面での営業活動が定着する中で、顧客接点のデジタル化は各企業が優先して取り組むべき領域です。OSSのMA(マーケティングオートメーション)ツールである「Mautic」は、見込み客の属性や行動に合わせた最適なアプローチを自動化します。

  • 特徴: 顧客のWebサイト訪問履歴やメール開封状況をトラッキングし、スコアリング(興味関心の数値化)を行う機能を備えている。条件に応じたメールの自動配信や、入力フォームの作成も一元管理可能
  • DX効果: 属人化しやすい営業プロセスを標準化し、確度の高い顧客を効率的に抽出する。人手によるフォロー漏れを防ぐことで、限られたリソースでも成約率の向上を見込める
  • ポイント: 商用のクラウド型MAツールは月額費用が高額になる傾向にあるが、OSSであればコストを抑えつつ本格的なマーケティング基盤を構築できる

4.コラボレーション:GroupSession(グループセッション)

組織のDXには「社内コミュニケーションのデジタル化」も不可欠です。「GroupSession」は国産OSSのグループウェアであり、スケジュール管理、掲示板、ワークフロー(電子決裁)などの機能を備えています。

  • 特徴:シンプルで使いやすいUI。社内ポータルとして活用可能
  • DX効果:情報共有のスピードが向上し、テレワーク環境にも対応できる
  • ポイント:オンプレミス環境での利用も可能なため、セキュリティポリシーの厳しい企業にも適している

5.運用管理:Zabbix & Hinemos

DXを進めると、クラウドやオンプレミスのシステム、ネットワーク機器、アプリケーションなど、管理対象が急速に増えます。これらを人手で監視・運用するのは現実的ではありません。障害対応が遅れれば、業務停止や顧客への影響といった重大なリスクにつながります。
ここで重要になるのが「運用管理の自動化」です。

Zabbix(ザビックス)

世界的に有名なOSS監視ツールで、大規模システムに強みがあります。サーバー、ネットワーク機器、クラウドサービスの稼働状況をリアルタイムで監視し、異常を検知するとアラートを発報します。

  • 特徴:数千台規模の監視にも対応。Webインターフェースで設定可能
  • DX効果:障害を早期に検知し、業務停止リスクを最小化。クラウドやオンプレを横断した統合監視が可能
  • 活用例:ECサイトや金融システムなど、24時間稼働が必須の環境での安定運用

Hinemos(ヒネモス)

国産の統合運用管理ツールで、中小規模システムに適しています。監視機能に加え、ジョブ管理(定期処理の自動実行)機能も有しています。

  • 特徴:監視+ジョブ管理を一括で提供。国産ならではの日本語UIとサポート体制
  • DX効果:バックアップやバッチ処理を自動化し、運用担当者の負荷を軽減する
  • 活用例:製造業や流通業での夜間バッチ処理、データ連携の自動化

まとめ:OSSとローコードでDXを加速

DXを推進するには、次の3つの要素が求められます。

  1. スピード
  2. コスト
  3. 柔軟性

OSSとローコードツールは、これらを満たす強力な選択肢となり得ます。

Pleasanterによる業務のデジタル化、Metabaseでのデータ可視化、Mauticを用いたマーケティングの自動化、GroupSessionによる社内連携の強化。そして、ZabbixやHinemosを活用したシステム運用の安定化。これらを自社の課題に合わせて適切に組み合わせることで、DXはより現実的な施策として機能します。

まずは特定の業務領域など、限定的な範囲から導入に着手することが、組織変革に向けた確実なプロセスとなるでしょう。

ツール選定以上に本質的なのは、業務プロセスを深く理解し、現場の実情に即した体制を構築することです。ツールの導入はあくまで手段であり、その後の運用と現場への定着を実現して初めて、DXはその真価を発揮します。

帯邉 昇

執筆者

株式会社MU 営業部

帯邉 昇

新卒で日本アイ・ビー・エム株式会社入社。ソフトウェア事業部でLotus Notesや運用管理製品Tivoliなどの製品担当営業として活動。その後インフォテリア株式会社、マイクロソフト株式会社で要職を歴任した。キャリア30年のほとんどを事業立ち上げ期のパートナーセールスとして過ごし、専門はグループウェアやUC、MA、SFA、BIなどの情報系で、いわゆるDXの分野を得意とする。(所属元)株式会社エイ・シームジャパン。