セルフオーダーで人件費が減らない店の共通点|飲食店DXの誤解

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「セルフオーダーを入れれば人件費が下がる」と聞いて導入したのに、シフトはほぼ変わらず、月額費用だけが増えている。そんな声を飲食店経営者から耳にする機会が増えました。注文業務はたしかに減ったはずなのに、現場の忙しさは変わらず、スタッフからも「楽になっていない」と言われる。導入費用と月額を払い続けて、本当に元が取れるのか不安になっている経営者さんも多いのではないでしょうか。

人手不足が構造化している今、飲食店のDX(デジタルトランスフォーメーション)の入り口として、セルフオーダー導入の判断は経営の中心テーマになりつつあります。本記事では、人件費が減らない店に共通する6つのパターンを、システムの良し悪しではなく飲食店のオペレーション設計の問題として整理します。読後には、自店で何を計測し、どこを再配置すれば効果が出始めるのか、その入り口が見えるはずです。

【本記事の要点】

  • セルフオーダーは人を減らす道具ではなく、少ない人数で店を回すための道具である
  • 人件費が減らない原因はシステムの良し悪しではなく、注文以外の業務設計を見直していないこと
  • 効果は人件費削減だけでなく、客単価向上・回転率改善・注文ミス削減の合算で見る
  • 導入を検討する前に、時間帯別の業務棚卸しと人時売上高の計測から始める

セルフオーダーを入れたのに人件費が減らない、という現実

セルフオーダーを入れたのに人件費が減らない、という現実

導入率が上がる一方で、削減効果に届かない店が増えている背景を整理します。データと現場の声の両面から見ていきます。

リクルートの調査では、飲食店経営者のデジタルツール導入率は2024年3月時点で58.3%と過去最高を更新し、2年連続で増加しています。消費者側でも、外食時にセルフオーダー(QRコードや専用端末からの注文)を利用した経験のある人は、2021年の26.0%から2024年に57.1%へと急増しました。店舗にとってもお客にとっても、セルフオーダーはもう特別な仕組みではありません。

ところが現場では、導入したのにシフトが減らせない、リース料だけが固定費として残った、という声が後を絶ちません。原因ははっきりしていて、注文業務だけを切り出してデジタル化しても、飲食店の業務は効率化されないからです。飲食店には、注文業務以外にも数多くの業務があります。

  • 来店客の案内
  • 配膳と下げ膳
  • 会計
  • 清掃
  • 問い合わせ対応
  • クレーム対応
  • 初回客への説明
  • ピーク時の厨房連携

これらをどう再設計するかを決めずにセルフオーダーシステムだけをやみくもに導入すると、「注文業務だけ減って、忙しさは変わらない」という状態に陥ります。

出典・参照:

なぜ「セルフオーダー=人件費削減」という誤解が広がったのか

セルフオーダーを「省人化ツール」として紹介する記事や営業資料が多いため、「導入=シフト削減」と受け取られがちです。この章では誤解の根っこを整理し、なぜ自店の数字と事例の数字がずれるのかを掘り下げます。

注文業務はホール業務全体の一部に過ぎない

ホールスタッフの業務を分解すると、注文取りに費やす時間は思ったより限定的です。多くの店では、配膳・下げ膳・会計・案内・清掃にかける時間のほうが長く、注文だけをデジタル化しても削れる総工数は小さくなります。仮に注文時間が30%減ったとしても、ホール業務全体で見れば数%しか削減できない、という現実があるのです。

飲食業の人手不足は構造的に続いている

厚生労働省「一般職業紹介状況」(令和6年7月分)では、飲食物調理の有効求人倍率が2.57倍、接客・給仕が1.97倍と、全産業平均(同月で1.16倍前後)を大きく上回ります。採用がそもそも難しい状況下では、「セルフオーダーで人を減らす」よりも「セルフオーダーで今いる人数のまま回せる体制にする」という発想のほうが現実に即しています。

ベンダーの成功事例はそのまま自店に当てはまらない

導入事例には「人件費◯%削減」といった数字が並びます。しかし業態・客層・席数・回転数が違えば再現性は変わります。家族経営でキャパシティ10席の店と、駅前80席の居酒屋では、削れる業務も残る業務もまったく異なります。そのため、自店の業務構造を可視化しないまま事例の数字を期待値にすると、ギャップが生まれてしまうのです。

出典・参照:

人件費が減らない店に共通する6つのパターン

人件費が減らない店に共通する6つのパターン

ここからは、現場で観察される失敗パターンを6つに分けて整理します。それぞれ「失敗している状態→なぜそうなるか→何を見直すか」の順で説明します。自店の状況と照らし合わせながら読んでください。

1. 注文業務だけを削減対象にしている

失敗している店では、セルフオーダー導入後もホールの人数を据え置いています。理由は明快で、注文以外の業務(配膳・会計・清掃)が残っているため、現場が「人を減らせる気配がない」と感じるからです。

打ち手は、時間帯別に業務をタイムスタディすることです。30分単位で「誰が何をしていたか」を1週間記録すると、注文以外の工数の大きさが見えてきます。

  • 注文業務に充てていた時間がどこに移ったのか
  • 別の業務に吸収されているのか
  • 空き時間が生まれているのか

こうした工数を可視化し、区別できれば、シフト再設計の手がかりになります。

2. 配膳・片付け・会計の負荷を見落としている

セルフオーダーで注文が増えると、結果として配膳と下げ膳の回数が増える店があります。お客がスマホからこまめに追加注文するため、1テーブルあたりの配膳回数が導入前より多くなるパターンです。会計についても、テーブル会計のまま運用するとレジ前の渋滞は解消しません。

打ち手は、次のような「注文以外の工程」を同時に再設計することです。

  • 事前会計やテーブル決済への切り替え
  • バッシング動線の見直し
  • 配膳ロボットや料理提供位置の集約

注文だけを変えても、出口に人が滞留する構造は変わりません。

3. スタッフ配置を導入前のまま変えていない

ピークタイム3名、アイドルタイム2名、というように曜日・時間帯別の配置を導入前のまま運用している店では、人件費はほぼ動きません。多くの店では、セルフオーダーが効くのは、ピーク時に注文殺到で詰まる場面と、アイドル時に注文取りに張り付かなくてよくなる場面の2ヶ所しかないのです。

ここで参考になるのが、ダイニーが公開している「モデルシフト(曜日×時間帯別の標準シフト設計)」の考え方です。同社の事例では、モデルシフト導入で人件費率を8%下げた例が報告されています。要点は、来店ピークと業務量に合わせてシフト枠を組み替えることであり、ツール導入そのものではありません。

出典・参照:

4. 高齢客や初回客のサポート工数を見込んでいない

操作に戸惑うお客に呼ばれて、結局スタッフが端末の前に張り付く時間が長くなる店があります。注文業務がデジタル化されたつもりでも、サポート業務として人手が残るためです。

打ち手は、導線の整理です。

  • UIの簡素化(写真主体、絞り込みなし、文字大きめ)
  • 入口での簡単な使い方説明
  • 操作が難しいお客向けに紙メニュー+口頭注文を残す導線の整理

こうした導線を整理する場合、すべてを完全に切り替える必要はなく、「セルフが基本、有人がサポート」という二層構造を最初から想定するほうが現実的です。高齢客や常連客を切り捨てる方向に走ると、客離れによる売上減のほうが人件費削減を上回ってしまいます。

5. 客単価・回転率の改善設計がない

人件費削減だけを目的にした店では、メニュー設計に手を入れていないケースが目立ちます。セルフオーダーシステムを導入すると、注文時の口頭おすすめがなくなる分、客単価が導入前より下がる店も少なくありません。

例えば、テイクアウト&完全キャッシュレスを売りに展開したハンバーガーチェーン「ブルースターバーガー」では、専用アプリ等での事前決済・スマートモデルを採用し、人件費や家賃を極限まで抑えることで高品質なグルメバーガーを低価格で提供することを目指していました。しかし、注文時の接客提案ができずリピートにつながらなかったことなどが要因となり、2022年7月末で全店が撤退に至りました。

逆に、メニュー写真・おすすめ表示・セット提案・追加注文導線を作り込んだ結果、客単価が平均で約200円上がったという報告もあります。セルフオーダーは接客の代替ではなく、デジタル上での提案装置と捉え、メニュー設計を組み直すことが回収条件になります。

出典・参照:

6. 導入後の効果測定をしていない

セルフオーダーシステムを導入したまま、人時売上高・注文ミス率・呼び出しベル件数・客単価といった指標を計測していない店では、効果が出ているか判断できません。結果として、「何となく忙しい気がする」「あまり変わらない気がする」という感覚論で運用が続きます。

打ち手は、導入前後で同じ指標を取り続けることです。最低でも、次の4つの指標だけは記録に残すようにしましょう。

  1. 時間帯別の人時売上高
  2. 1日の呼び出し回数
  3. 1組あたりの注文回数と平均単価
  4. 注文ミス件数

数値で見れば、効果が出ている工程と出ていない工程を切り分けられます。口頭注文と併用したまま運用すると二重オペが発生し、ミスがむしろ増える、という失敗事例も少なくありません。

出典・参照:

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。