【リゾート業界のDX事例】宿泊施設の未来を創る業界大手の取り組み

【リゾート業界のDX事例】宿泊施設の未来を創る業界大手の取り組み

風光明媚な自然や絢爛豪華な宿泊施設で利用客の疲れやストレスを癒し、新たな活力を提供してきたリゾート業界。政府も「観光立国」を掲げており、まさに今後の日本経済には欠かせない重要な産業です。

しかし、長期化するコロナ禍の影響で、インバウンドや国内旅行の需要が激減。従来の営業スタイルのまま、この苦境を乗り切る事は非常に難しい状況になっています。

今回はこのような状況にいち早く適応したリゾート業界の取り組みを取り上げます。具体的には、宿泊施設3社と大規模商業リゾート施設にスポットを当て、そこで行われているDX(デジタルトランスフォーメーション/以下:DX)施策をご紹介します。

リゾート業界大手施設のDX事例

リゾート業界大手施設のDX取組事例

今回紹介する宿泊施設3社と大規模商業リゾート施設は以下の通りです。

1.星野リゾート

2.鶴巻温泉「陣屋」

3.温泉リゾート旅館「山人ーyamadoー」

4.商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」

DX導入に至った経緯や成果、今後の展望などをお読みいただき、自社への事業にお役立てください。

1.星野リゾート

高級リゾートとして名高い星野リゾートは、ホテルや旅館など土地・建物を所有せず、運営に特化した会社です。

そんな星野リゾートがまず導入したのは、以下のようなDX施策です。

・予約システムや販売管理

・スタッフ稼働の生産性を分析するシステムや財務管理

・勤怠管理などのシステム構築と管理

これらは、業務効率を高めることを目的に導入されることが決定しました。ところが、システム開発の段階において、当初検討されていた外部ベンダーに委託すると、スピードとコストの面で不都合が生じたため、システム開発エンジニアの内製化を行って対処しました。

エンジニアの内製化には社内からも消極的な意見もありましたが、星野リゾートの組織文化、ビジネス、社員として必要なマインドを持つエンジニアを集中的に採用し、今までは外部委託していた業務に自社で対応できる体制を構築しました。

これにより、以前は1年くらいかかっていたサイト制作が3ヵ月に短縮されたり、システムの問い合わせに対する回答までの所要時間が、平均1週間から半日にまで減少するなど、社内での実績を着実に積み上げていきました。

目に見える成果を挙げたことで、設立当初は懐疑的な意見もあったエンジニアチームは、社内から信頼度の獲得に成功しました。

この実績により、DXの価値が社内に広く認知され、経営陣や従業員も技術導入を前提とした、新たな課題への解決やサービスの提案ができるようになったのです。

そして、現在では内製エンジニアの利点を最大限に活かし、顧客の期待を上回るサプライズや繊細で気配りの効いたおもてなし、魅力的なイベントなど、より質の高いDX施策を実現しています。

2.鶴巻温泉「陣屋」

神奈川県にある鶴巻温泉「陣屋」は、一時は年間6000万円の赤字が出るほどの深刻な経営危機に陥りながらも、独自のDX「陣屋コネクト」を開発し、わずか数年で経営を立て直すことに成功した老舗旅館です。

DX導入を検討し始めた当時は、社内にITの専門家がほとんどいない状況だったため、ゼロからシステムを構築することは無理だと考え、クラウドサービスでカスタマイズもしやすい「Salesforce(セールスフォース)」を導入しました。

陣屋は、売上管理、顧客情報の管理については Salesforceで提供されている機能をそのまま使用し、予約管理システムの「旅館に特化した仕組み」だけを独自に構築していきました。

さらに、以下のようなDXを用いた業務を、少しずつ現場に浸透させていきました。

【陣屋コネクトで実現したDX事例】

・車や利用客の入退場を感知するIoTの導入による、待機ロスの無いスムーズな出迎えや見送り

・利用客のデータをもとに、好みに合わせた料理の提供、食品ロスと廃棄コストの削減

・接客、清掃、調理場といった各業務のデータ連携

・朝礼や夕礼、清掃指示、引き継ぎにチャット機能を導入

・従業員満足度(ES)の高い組織への成長

「陣屋」の独自の管理システムは、開発側と接客部門の間で議論を経て、ブラッシュアップ重ねて遂に完成。

今では、クラウド型ホテル・旅館管理システム「陣屋コネクト」として同業他社である旅館・ホテルに販売し、社の売上に貢献するまでに至りました。

つまり、DX導入は自社の業務効率化や顧客サービスの向上をもたらしただけでなく、新しいビジネスチャンスをも生み出したのです。

3.温泉リゾート旅館「山人ーyamadoー」

「山人-yamado-」は、源泉掛け流しの温泉、美しい自然、地元特産の素材を使用した食事を満喫できる宿として有名な人気旅館です。

宿泊施設の業務は、予約、食事、支払い、チェックイン・チェックアウトなどあらゆる業務項目が並行して存在します。これらをアナログで管理することには限界があり、DX導入が検討されました。

当初は市販の管理システムを導入しましたが、目に見える効果は得られませんでした。導入したシステムは、ITになじみがない旅館向けに作られたシステムであり、外部のサービスと連携できない仕様だったり、UI(ユーザー・インターフェース)の使い勝手が悪かったりと、業務効率の向上に役立つものではなかったのです。

そんな時、FileMaker(ファイルメーカー:開発言語ができなくてもアプリケーションを簡単に作れるプラットフォーム)を支配人が知る機会がありました。

業務効率の改善を目指して別のシステムを導入したとしても、新しい仕組みに慣れるまでの期間には現場の混乱が生じてしまいます。

しかし、FileMakerは、デザインやUIは従来システムに似せることが可能でした。これにより、新システム導入による現場の混乱を防ぎ、引き続き様子を見ながら改良を進めることができました。

システム導入後に、現場のニーズに合わせて改良していけるアジャイル開発が可能だったため、外部ベンダーに頼ることなく支配人が独自に開発を行い、2~3年かけて完成させ、全面的な運用へとこぎつけることに成功しました。

運用開始後は、各業務あたりの作業工数の大幅な圧縮ができ、それによって生まれた時間が、お客様への対応やサービス品質のさらなる向上につながりました。

業務効率が大幅に改善された例としては、館内パンフレットの作成が挙げられます。

「山人-yamado-」 では、利用客へのサービスの一環として、宿泊する日程や利用客ごとに異なる以下の情報をパンフレットに記載しています。

・日の出、日の入りの時刻

・貸し切り風呂の予約時間

・食事の時間

・チェックアウト時刻

このサービスは、もともと従業員のアイデアから生まれたものでした。このようなサービスは利用客の満足度を上げるものですが、DX導入前は従業員が毎日自分で調べて手書きしており、非常に工数がかかる作業でした。

しかし、DXを導入したことにより、今では自動で印字されるのでサービス内容はそのままに、業務時間の短縮を実現しています。

4.商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」

2021年7月、伊勢志摩、熊野古道などの観光名所を有する三重県多気町に、国内最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」がグランドオープンしました。

東京ドーム24個分に相当する広大な敷地には、猿田彦珈琲など三重県にゆかりのある店舗計18店が出店し話題を集めています。

また、VISONは商業リゾート施設としてだけでなく、内閣府が進める国家戦略特区施策で、地域・事業者・国が一体となり様々な課題を解決していく取り組みでもあるスーパーシティ特区として、先端的サービスを1つのIDで管理する「One-ID」によるデータ連携基盤の構築が計画されている事にも注目が集まっています。

【モビリティ分野】

・自動運転バス周遊サービスの運用

・自律式ドローンやルームサービス及び自動ごみ収集ロボットの導入

【デジタル観光分野】

・希望者参加型の観光ポータルサービスにより、位置情報の提供、好みに合わせた情報発信

【キャッシュレス分野及び地域通貨】

・個人の顔を自動で識別し、買い物等の決済を行う「フル顔認証決済」の導入

【次世代人材育成分野】

・コワーキングスペースの設置

【医療ヘルスケア分野】

・移動式遠隔診療、処方箋配送サービスの提供

・オンライン診断、次世代型医療施設の開設

これらのDX施策は、今後、VISONを囲む6つの町(多気町・大台町・明和町・度会町・大紀町・紀北町)に還元していくことでより大規模に展開される予定です。

商業リゾート施設から地域へスケールされていくDXの展開は、今後、日本全体の地方創生のモデルケースとなっていくでしょう。

まとめ

リゾート業界のDX施策をご紹介させていただきました。

DX導入により業務効率が改善した施設は、どの施設でも、そこで働く従業員の業務内容に合わせ、何をITに置き換えるかを入念に検討していました。

従来の業務内容を真摯に振り返り、具体的に何がボトルネックになっているか、顧客への対応では何が足りていなかったを明確にすること。

そして、「その課題を改善させることができるDXは何であるのか」を理解した上で、トライ・アンド・エラーを繰り返した事が成功の要因と言えます。

また、「陣屋ネクスト」や「VISON」のようなに、導入したDXをさらに大きなスケールで展開していく流れにも注目です。

このように、他社や地域での成功事例に目を向けて、自社にも柔軟に取り入れていくことが、DXをスピーディーに成し遂げるポイントになっていくでしょう。

SNSシェア

この記事の執筆者

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

DXportal®運営チーム

DXportal®編集部

DXportal®の企画・運営を担当。デジタルトランスフォーメーション(DX)について企業経営者・DX推進担当の方々が読みたくなるような記事を日々更新中です。掲載希望の方は遠慮なくお問い合わせください。掲載希望・その他お問い合わせも随時受付中。

前後の記事

全ての記事を見る

カテゴリーから記事を探す

ちゃちゃっとボットはこちら