AI導入をためらう企業・人材のリスク

一方で、AIの導入や活用をためらうことには、企業の存続に関わる重大なリスクが伴います。
競争力の低下と市場からの淘汰
まず直接的なリスクとして、競争力の低下が挙げられます。
AIを活用する競合他社、特に導入が進んでいる大企業などは、生産性を飛躍的に向上させ、コスト削減や新たなサービス開発を加速させています。そんな中で、AI導入に踏み切れない企業は相対的に不利な立場に置かれていくのです。
効率の差はコスト競争力や収益性の差となって現れます。さらに、顧客体験の向上においても後れを取ってしまうことで、徐々に市場シェアを失っていく可能性が高まります。最終的には、市場原理によって淘汰されるリスクが現実味を帯びてくるでしょう。
歴史が示す技術導入への抵抗とその結末
「AIを使うのは、何か負けた気がする」
「人間の仕事が奪われるようで抵抗がある」
AI導入へのためらいの背景には、こうした心理的な要因が存在することも少なくありません。こうした感覚は、過去の大きな技術革新の際にも同様に見られたものです。
例えば、携帯電話が登場した際、「電話は一家に一台あれば十分」と考えた人は決して少数派ではありませんでした。その後、スマートフォンが普及し始めた時期にも、「従来の携帯電話(ガラケー)で機能は十分だ」という声が多く聞かれました。
しかし、その後の社会やビジネス、そして私たちの生活様式が、これらの技術によっていかに劇的に変化したかは、もはや説明するまでもないでしょう。
現代におけるAIの急速な進化と普及は、まさにこの携帯電話からスマートフォンへの移行期に匹敵する、あるいはそれ以上のインパクトを持つ「ゲームチェンジャー」と捉えるべきです。
こうした革新的技術の歴史を紐解いていくと、大きな技術革新の波に対して抵抗したり、導入をためらったりすることは、結果的に時代の潮流から取り残されて競争力を失うことに繋がる可能性が高いことがわかります。
髙橋氏の「ほっておけ」という言葉も、こうした歴史の必然とも言える厳しい現実を反映しているのかもしれません。
人材獲得・維持の困難化
AI活用がビジネスの現場で当たり前になるにつれて、優秀な人材、特にデジタル技術に慣れ親しんだ若い世代は、AIツールを積極的に活用できる環境を職場に求めるようになります。AI導入に消極的、あるいは否定的な企業文化は、そうした人材にとって魅力的に映らず、採用競争でも不利になる可能性が高まります。
既存の社員にとっても、スキルアップの機会が乏しく、時代遅れの働き方を強いられていると感じさせてしまうかもしれません。エンゲージメントの低下や離職につながるリスクも無視できません。
新たなビジネスチャンスの喪失
AIは、既存業務の効率化や改善に貢献するだけでなく、これまで想像もできなかったような新しいビジネスモデルやサービス、市場を生み出す可能性を秘めています。AI技術の進化によって生まれる新たな顧客ニーズや事業機会を的確に捉え、活用することができなければ、大きな成長のチャンスを逃すことになりかねません。
髙橋氏は、バルセロナでのインタビューで、AIの可能性について「面白くてしょうがない」と強い期待感を示しました。その言葉通り、AIの持つポテンシャルは計り知れません。現状維持を選択することは、未来の大きな果実を取り逃がすことと同義になりかねないのです。
まとめ:AIはもはや選択肢ではなく必須の時代へ
本記事では、KDDIの髙橋前社長の「AIを使えない人はほっておけ」という言葉を糸口に、ビジネスにおけるAI活用の不可欠性と、導入をためらうことのリスクについて解説してきました。
AI技術の進化は、もはや無視できない経営課題であり、その活用は企業の未来を左右すると言っても過言ではないでしょう。
- AI活用は企業と人材の「二極化」を加速させる
- 生産性向上や価値創造のため、AIはビジネスに不可欠である
- AI導入の遅れは、競争力低下や機会損失のリスクを高める
- 技術革新への適応こそが、未来を生き抜く鍵となり得る
AIを「使うか、使わないか」という選択の時代は終わりを告げ、「いかに活用するか」が問われる時代へと突入しています。特に、リソースに限りがある中小企業にとって、AIは飛躍的な成長や生産性向上を実現するための強力な武器となり得るのです。
AI導入の遅れがもたらすリスクを認識し、まずは自社の課題とAI活用の可能性について情報収集や議論を始める。それこそが、未来に向けた最初の一歩を踏み出すことであり、今まさに求められている企業の「持続的成長の鍵」なのではないでしょうか。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。
最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。
2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ