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近年、AI技術は目覚ましい進化を遂げており、ビジネスの世界でもその活用が急速に進んでいます。しかし、依然として多くの企業、特に中小企業においては、AI導入への具体的な一歩を踏み出せずにいます。
本記事では、KDDIの髙橋誠前社長(当時/以下:高橋氏)の言葉を参考にしながら、なぜ今、ビジネスにおけるAI活用が不可欠なのか。そして、AIを活用できない企業やビジネスパーソンが直面しうるリスクについて解説します。
この記事を読むことで、AI導入の重要性を深く理解し、AI活用に向けて自社が取るべき方向性を考えるきっかけを得られるでしょう。
「AIを使えない人はほっておけ」発言の真意

KDDI髙橋前社長(当時)は、2025年3月3日にスペイン・バルセロナで開催されたモバイル関連見本市「MWCバルセロナ2025」での基調講演後に日経ビジネスが行ったインタビューに応じ、社長退任前最後のメッセージを残しました。
この中で口にした「AIを使えない人はほっておけ」という発言は、大きな波紋を呼びました。
この言葉は、一見するとAI時代に順応できない人を切り捨てる過激な発言に聞こえるかもしれません。しかし、この言葉の背景には、KDDI社内ですでに進んでいる「明確な二極化」という現実があります。
髙橋氏によれば、KDDI社内ではすでに社員の7~8割が何らかの形でAIを利用しているといいます。
特に若い世代は、AIへの指示(プロンプト)作成などにおいて高いセンスを発揮しています。彼らはAIを活用して自身の業務を効率化し、それによって生まれた時間を、自己の専門性(スペシャリティ)を磨くために投資しているのです。
つまり、社内にはすでに「AIを使いこなし、個人の市場価値を高めていく層」が圧倒的多数派として存在しており、髙橋氏はそちらの人材を積極的に伸ばしていく姿勢を示したのです。
裏を返せば、AIを使わない残りの2~3割に対して「無理に底上げをするよりも、意欲ある層を伸ばすフェーズに入った」という経営判断とも受け取れます。これは、ジョブ型雇用など個々の能力が重視される現代において、AI活用能力が個人のキャリアを左右する決定的な要素になったことを示唆しています。
個人レベルの格差は企業間の格差へ

そして、この「使える側」と「使えない側」に成果が分かれる現象は、一企業内の人材に限った話ではありません。企業そのものの競争力においても、同様の「二極化」が進行しています。
その実態を示すのが、コーレ株式会社が2024年12月末に実施した『2025年最新・企業の生成AIの利用実態調査』です。
「利用しない」こと自体がリスクになる時代
この調査では、企業の管理職やマネージャー層といったビジネスリーダーのうち、約6割(60.7%)が自社で生成AIを「業務で利用している」と回答しました。
この数字は、AI活用がすでに「一部の先進的な企業だけのもの」ではなく、「ビジネスの標準」になりつつあることを如実に示しています。
しかし逆に見れば、KDDI社内でAIを使わない社員が少数派になりつつあるのと同様に、ビジネス市場全体で見ても、AIを利用していない約4割の企業は、すでに過半数が実践している効率化の武器を持たずに戦っていることになります。「利用していない」側にいることは、もはや現状維持ではなく、相対的に大きく遅れを取っている状態と言えるでしょう。
経営層が抱く危機感と期待
髙橋氏が、自身より10歳若い松田浩路氏へ社長職を託した背景にも、AI時代への強い意識がありました。
「今のAIの人たちはみんな若い。若い社長をつくりたかった」という言葉は、AIを使いこなす世代が、今後のビジネスを牽引していくという経営層の認識の表れでしょう。
AIがもたらす変革のスピードに対応するには、新しい感性やスキルを持つ人材が不可欠であり、企業全体としてAI活用を推進しなければ、時代の変化に取り残されるという危機感がうかがえます。
なぜビジネスにAI活用が不可欠なのか?

これまで見てきた通り、今やビジネスにおいてAI活用は不可欠なものになりつつあります。ここでは、AIがビジネスにもたらすメリットを整理していきます。
生産性向上と業務効率化
ビジネスにおけるAI活用の最も直接的なメリットは、生産性の向上と業務効率化です。定型的な作業やデータ分析、顧客対応の一部などをAIに任せることで、人間はより創造的で付加価値の高い業務に集中できます。
現代のビジネス環境においては、AIであれ他のテクノロジーであれ、業務効率化や新たな価値創造に繋がる利用可能なツールを積極的に採用することは、もはや避けては通れない課題です。それによって生み出された時間やリソースを、より高度な思考や判断、あるいは人間にしかできない「付加価値の高い業務」に振り分けることが、成果を最大化するための極めて合理的な戦略と言えるでしょう。
KDDIの例のように、多くの社員がAIを活用することで、企業全体の生産性が底上げされ、競争優位性を確立することが可能になります。
新たな価値創造とイノベーション
AIは単なる効率化ツールにとどまりません。膨大なデータの分析から新たな知見を発見したり、これまで不可能だったサービスを実現したりするなど、イノベーションの触媒となり得ます。
髙橋氏が語るように、AIデータセンターの構築や、ローソンの店舗網を活用したエッジAI(現場に近い場所で処理を行うAI)の可能性など、AIインフラを整備することが重要です。その結果、自動運転やドローン配送といった未来のサービス、あるいは個々の顧客に最適化された新しい体験を提供できる可能性が広がっていくでしょう。
データに基づいた意思決定の高度化
DXの本質の一つは、データに基づいた客観的な意思決定です。AIは、複雑なデータを迅速かつ正確に分析し、人間では見落としがちなパターンや傾向を明らかにします。
これにより、経営戦略やマーケティング施策、製品開発など、あらゆる場面において、より精度の高い意思決定が可能となり、ビジネスの成功確率を高めることができるのです。
競争環境の変化への適応
グローバル化やデジタル化が進む現代において、ビジネス環境は常に変化しています。
そんな時代だからこそ、AIを導入し、活用している企業は、変化への対応スピードが格段に向上します。市場の動向や顧客ニーズの変化をいち早く捉え、迅速に事業戦略を修正することが可能だからです。
逆に、AIを活用しない企業は、こうした変化への対応が遅れ、競争から脱落していくリスクが高まるでしょう。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援をエンジニア + 経営視点で行う。
最近の趣味は音楽観賞と、ビジネスモデルの研究。
2021年1月より経営診断軍師システムをローンチ