パスキーがもたらす革新的なメリット

パスキーには、従来のパスワード認証が抱える課題を解決し、デジタル環境における安全性と利便性を飛躍的に向上させる多くのメリットがあります。本章では、そのメリットについて詳しく解説します。
1. 高いフィッシング耐性
パスキーの最大の特徴の一つは、その高いフィッシング耐性です。
従来のパスワード認証では、ユーザーが入力した文字列が正しいかどうかを認証をしていました。そのため、パスワードの盗用を企むフィッシング詐欺などでは、巧妙に作られた偽のサイト(フィッシングサイト)にユーザーを誘導し、そこで入力されたパスワードを盗み取る手法が広く用いられてきたのです。
これに対し、パスキーはログインしようとしているサイトのドメイン(URL)と紐づいて生成されます。この仕組みにより、正規のサイト用に作成されたパスキーは、ドメインが異なるフィッシングサイトでは機能しません。
したがって、たとえユーザーが誤って偽サイトにアクセスし、認証を試みたとしても、パスキーは機能しないため、認証情報が盗まれるリスクは極めて低いのです。これは、日々巧妙化するフィッシング詐欺からユーザーを守る上で、非常に強力な防御策となります。
2. パスワード不要の利便性
パスキーを導入することで、ユーザーは複雑なパスワードを覚える必要がなくなります。パスワードの使い回しや定期的な変更といった、煩雑なパスワード管理から解放されるのです。
これにより、多くの企業で問題となっている「パスワード忘れによる問い合わせ」や「パスワードの杜撰な管理によるセキュリティリスク」が大きく軽減されるでしょう。
具体的には、ユーザーはスマートフォンやPCなどのデバイスに搭載された顔認証や指紋認証といった生体認証、あるいはPINコードなどのデバイスロック解除機能を利用するだけで、安全かつスムーズにログインできるようになります。これにより、ログインプロセスが大幅に簡素化され、ユーザーエクスペリエンスが劇的に向上します。
実際に、KDDIがau IDにFIDO認証(パスキーの基盤技術)を導入した事例では、パスワード忘れによるカスタマーサポートへの電話問い合わせ件数が約35%減少したと報告されています。これは、パスキーがもたらす運用負荷軽減効果の明確な事例です(参考:世界パスキーの日2025を祝して:パスキー導入実施例のご紹介 (国際版の日本語訳)/FIDO Alliance)。
ユーザーの利便性向上は、結果として従業員の生産性向上にも繋がり、顧客満足度の向上にも寄与する可能性を秘めています。
3. 強化されたセキュリティ
従来のパスワード認証では、パスワードがサーバーに保存されたり、ネットワークを介して送信されたりするため、データ流出や通信傍受のリスクが常に存在しました。一つのサービスからパスワードが漏洩すれば、同じパスワードを使い回しをしていた他のサービスも芋づる式に不正アクセスの被害に遭う危険性があったのです。
これに対し、パスキーでは認証に利用される秘密鍵がユーザーのデバイス内に安全に保存され、インターネット上には一切送信されません。この仕組みは、FIDOアライアンスが提唱する公開鍵暗号方式に基づいており、デバイス固有の秘密鍵が外部に漏れることなく認証を行うことができます。
そのため、たとえ悪意のある第三者が通信を傍受しようとしても、肝心な秘密鍵がデバイスの外に出ないため、本人以外の不正アクセスは極めて困難になります。従来のパスワードのように、一度のデータ流出によって複数のアカウントのパスワードが一括で盗まれるリスクが大幅に軽減されるため、企業全体のセキュリティレベルが格段に向上するでしょう。
このフィッシング耐性の高さも相まって、パスキーは現代のサイバー攻撃に対する非常に強力な防御策となるのです。
4. 二要素認証(2FA)の進化形
従来の二要素認証(2FA)は、パスワードだけでは不十分なセキュリティを補完する強力な手段として広く推奨されてきました。しかし、その導入には、ユーザーがSMSで送られてくる確認コードを入力したり、認証アプリを開いて生成されたコードを打ち込んだりする手間が伴うという欠点があります。これは、特にログイン頻度が高いサービスにおいては、ユーザーにとって負担となることも少なくありません。
これに対してパスキーは、そのデバイスを所持している本人であることを安全に検証し、同時に二要素認証のステップを自動的に満たすという画期的な仕組みを提供します。具体的には、ユーザーがパスキー対応サービスにログインしようとすると、デバイスが顔認証や指紋認証などの生体認証、あるいはPINコードによるデバイスロック解除を求める仕組みです。
これにより、パスキーは「ユーザーがパスワードを知っていること(知識)」だけでなく、「特定のデバイスを所有していること」と「所有者が本人であること(生体情報やデバイスロック解除)」という二つの異なる要素を同時に確認します。
このプロセスは、従来の二要素認証で必要だった手動でのコード入力が不要になり、結果として、セキュリティを大幅に強化しながらも、ログインの手間を劇的に減らすことを可能にしました。従来の2FAと比較しても、パスキーはさらに安全性が高く、かつ利便性に優れていると評価されています。
5. 複数デバイスでの同期と利用
パスキーの利便性は、単一デバイスでの利用にとどまりません。現在のパスキーの主流は、AppleアカウントやGoogleアカウントといった主要なプラットフォームに紐付けて、複数の端末で同じパスキーを利用できる「同期パスキー」です。これは、パスキーの認証情報が安全なクラウドサービスを通じてユーザーの他のデバイスに自動的に同期される仕組みです。
例えば、iPhoneで作成したパスキーは、同じApple IDでログインしているiPadやMacでも利用可能ですし、Androidデバイスで作成したパスキーも、同じGoogleアカウントでログインしている他のAndroidデバイスやChromeブラウザから利用できるようになります。
この同期機能により、ユーザーはデバイスを買い替えた際にも、新しい端末でパスキーを再設定する手間なく、容易に認証が可能です。また、万が一、スマートフォンを紛失したり、デバイスが故障したりした場合でも、別のデバイスからスムーズにサービスにアクセスできるため、柔軟かつ継続的な運用が可能となるのです。
企業にとっても、従業員のデバイス移行時の手間を削減し、業務の中断を最小限に抑えることができるため、非常に大きなメリットとなります。
まとめ:DX推進におけるパスキーの意義
パスキーへの移行は、現代のDXにおいて不可欠なセキュリティ対策であり、企業にも個人にも大きなメリットをもたらします。サイバー攻撃の脅威が増大し、AIを駆使した攻撃が巧妙化する中、「いつかやるべきこと」ではなく、「今すぐやるべきこと」であると認識すべきでしょう。
パスキーは、フィッシング詐欺に対する強力な防御を提供し、生体認証による簡単で素早いログインを実現します。これにより、パスワード管理の手間から解放され、二要素認証の手間を省きながらも同等以上のセキュリティを確保できます。
企業にとっては、セキュリティ強化だけでなく、ユーザビリティの向上やサポートコストの削減にも繋がり、ログインプロセスにおけるユーザーの離脱や問い合わせの減少が期待できるでしょう。
貴社の大切な情報、プライバシー、そしてデジタルアイデンティティを守るために、今日からパスキーの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。