中小企業経営者が情報処理技術者試験の合格とデジタル資格証明の取得を推奨するメリット

従業員に情報処理技術者試験の合格やデジタル資格証明の取得を促すことは、中小企業のDX推進において多岐にわたるメリットをもたらします。
1. DX推進をコスト効率良く加速する人材育成手段となる
従業員が情報処理技術者試験を通じて情報セキュリティやデータベース、経営戦略といったDX推進に不可欠な幅広いIT知識とスキルを体系的に習得することで、データサイエンティストやビジネスデザイナー、プロダクトマネージャーといった日本企業で不足しているデジタル事業に対応する人材のスキルギャップを埋める一助となります。
新たな人材を採用するよりも、既存社員のリスキリングは費用を抑えられることが多く、そのうえすでに企業文化や業務フローを理解しているため、迅速なDX推進が期待できます。従業員がデジタル技術を習得し、新しい職務や役割に柔軟に対応できるようになることで、企業全体のDXが加速できるでしょう。
もっとも、資格取得はDXを推進するための必要条件であり、十分条件ではありません。その効果を最大化するには、経営層の明確なコミットメントと組織全体の業務改革が不可欠です。
2. 従業員のエンゲージメント向上と組織強化に寄与する
リスキリングを通じて従業員が、「自身の努力が企業の進歩に繋がる」こと、つまりは「自身の役割には価値があると認識する」ことは、責任感を増したり、企業への貢献意欲が高まったりする効果があります。企業が資格取得に対して報奨金や資格手当を支給する制度を設けることで、従業員の学習意欲やモチベーションを効果的に高めることが期待できます。
スキルアップできる学習環境や成長機会を提供することは、既存従業員のエンゲージメントに大きく影響し、企業のブランディングにも貢献するものです。
また、このような取り組みは、変化の激しいVUCA時代(Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)を生き抜くための柔軟性やチャレンジ精神を持つ組織の構築にも繋がるはずです。
中小企業経営者が情報処理技術者試験の合格とデジタル資格証明の取得を推奨する課題と留意点

情報処理技術者試験の合格やデジタル資格証明の取得を促す取り組みには多くのメリットがある一方で、中小企業が取り組む上で考慮すべき課題も存在します。
1. 育成への投資と成果のバランス、および経営層のマインドセット変革の必要性
日本企業は欧米企業に比べ、DX人材育成への投資割合が低い状況にあります。中小企業は慢性的な人手不足やコスト削減圧力から、その必要性は認識しつつも、人材育成への十分な投資が難しいという場合があることも事実でしょう。
また、DX推進の最大の課題は、経営者のリーダーシップの欠如にあると指摘されている通り、専門知識を持った人材の登用や育成よりも前に解決すべき問題があるケースも少なくありません。どんなに優秀なデジタル人材を登用したり、従業員の資格取得を促したりしても、経営層をはじめとする意思決定社たちの意識が変わらなければ、DXは進まず、社員が取得したスキルも十分に活用されることはないでしょう。
社員の学習意欲を高め、実際に意味のあるリスキリングを実現するためには、経営層がDXを企業戦略の中核と捉えて、投資と変革へのコミットメントを示すことが不可欠です。
2. スキルの陳腐化と継続的な学びの文化醸成
デジタル技術の進化は非常に速く、一度習得したスキルが短期間で陳腐化するリスクが常に存在します。そのため、従業員が「学び続ける」文化と環境を企業内に醸成することが大切です。
その他にも、研修カリキュラムの定期的な見直しや、特定のスキルに依存しない柔軟なキャリアパスの設計が求められます。従業員が自律的に学習を進められるような仕組み作りも重要になってくるといえるでしょう。
3. 評価基準の客観性とソフトスキルの育成の難しさ
スキル評価の客観性を確保するためには、スキルマップの策定や外部評価ツールの導入が効果的です。リスキリングは、単に技術的なスキルだけでなく、問題解決能力、マネジメント能力、企画力、そして柔軟性やチャレンジ精神といったソフトスキルも身につけるきっかけとなるでしょう。
こうした点も含めて、従業員が努力して伸ばしたスキルを、賞与や役職など目に見える形で適切に評価することは欠かせない取り組みです。この部分を疎かにしてしまうと、従業員の学習意欲がそがれたり、せっかく育った人材が社外に流出したりしてしまうことに繋がりかねません。
また、リスキリング、なかでもソフトスキルの育成に関しては、学習量だけでなくこれらは個人の性格や価値観に大きく影響され、変化には時間がかかる場合があることも理解しておかなければなりません。学習効果が見られない従業員に対しては、アンラーニング(既存の常識を捨て去り、新しく学び直すこと)やデジタルリテラシー向上のサポートが先行して必要になる場合もあるでしょう。
4. 資格の「独占業務」の有無と社内・業界での認知度
応用情報技術者試験などの情報処理技術者試験は国家資格(標準型資格)であり、法的な独占業務は伴いませんが、弁護士や公認会計士のような「独占業務」が存在するものではありません。資格がなくてもITエンジニアとしての業務は行えるため、資格取得の重要性が理解されにくい場合もあるかもしれません。
なかでも、IT業界では知名度が高いものの、それ以外の一般企業ではその認知度が低い場合があるため、社員のリスキリングに対するモチベーションが高まりにくい企業もあるかもしれません。そのため、上から一方的にリスキリングを求めるのではなく、社内での資格の評価基準を明確にし、取得したスキルがどのように業務に活かされるのかを明確に示すことが重要です。
まとめ:中小企業のDX成功へのロードマップ
中小企業がDXを推進し、持続的な成長を実現するためには、情報処理技術者試験の合格やデジタル資格証明の取得を促すことは、単なる資格取得に留まらない戦略的な意味合いを持つものです。
経営者は、DX戦略と連動した具体的な人材像を設定し、それを社内に明確に周知することが求められます。リスキリングを企業戦略の中核に据え、学習プログラムの提供や実践機会の創出、経済的支援など、組織として積極的に学びを支援する仕組みを構築することが重要となるでしょう。また、ITスキルだけでなく、問題解決能力、マネジメント能力、企画力といったポータブルスキルも重視し、人事評価に反映させる仕組みを導入すべきです。
さらに、「スキルファースト」の考え方を取り入れ、デジタル資格証明や今後導入されるスキル情報IDを積極的に活用し、従業員のスキルを客観的に評価し、キャリア形成に繋げることが、これからの人材戦略において不可欠となるでしょう。
そして何よりも、経営者自身がDXの本質を理解し、変革への強いコミットメントとリーダーシップを発揮することが、中小企業のDX成功の鍵です。資格取得はあくまでDXを推進する一つの施策であり、それを最大限に活かすための企業文化と経営戦略が不可欠であることは言うまでもありません。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。