クラウドは止まる!それでも使い続ける理由と「できる備え」|AWSやAzureの障害から事業を守るための運用管理

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朝、業務システムが起動しない。この瞬間、「当たり前に動く」ことの有難さを痛感する企業は少なくないでしょう。それはクラウドサービスも同様です。クラウドは利便性が高く、処理速度が速く、拡張性も自由自在ですが、障害が発生するときは停止します。

最近もAWS(Amazon Web Services)やAzure(Microsoft Azure)で大規模な障害が発生し、SNSやニュースで大きな話題となりました。ECサイトの停止により決済ができなくなり、多くの企業と利用者が混乱に陥ったことが記憶に新しい方も多いでしょう。

このような事態が発生することがわかっていたとしても、クラウドの利便性は損なわれません。そのぐらい、現代ビジネスにおいて、クラウド活用はもはや切っても切れない生命線なのです。

では、なぜ企業はクラウドを利用し続けるべきなのか。そして、「クラウドは停止するものだ」という前提として、企業はそこにどう備えるべきなのかが、経営課題として浮上してくるでしょう。

本記事では、ITに詳しくない方にも理解できるよう、クラウド障害の現実と、事業継続を実現するための具体的な対策を解説します。

この記事でわかること(本記事の要点)

  • クラウドが停止するのが「前提」である理由と、オンプレミス環境への回帰が現実的ではない理由
  • クラウド障害から事業を守る3つの備えの方針(二重化、縮退、早期検知)
  • 被害を最小限に抑えるために運用管理で早期検知と対応が肝心である理由
  • 監視・通知・初動対応を自動化し、クラウド時代のBCP(事業継続計画)を実現する方法

なぜクラウドは止まるのか?

なぜクラウドは止まるのか?

クラウドサービスは、世界中のデータセンターを接続し、膨大なサーバーとネットワークによって構成された巨大な仕組みです。どんなに優れた技術者がいても、停電、機器故障、ソフトウェアの不具合、人為的な設定ミスといった要因をゼロにすることはできません。

実際の事例を確認してみましょう。AWSの東京リージョンでは、電源系統のトラブルによりEC2(仮想サーバー)やRDS(データベース)が停止し、スマホ決済やECサイトが一時的に利用不能となりました。また、Azureでは、世界規模で認証サービスが停止し、Teamsや業務システムが数時間にわたり使えなくなりました。

これらの事例が示すのは、クラウド障害は「例外」ではなく、残念ながら「前提」として認識すべき事象であるということです。

「オンプレに戻せばいい」という誤解

「オンプレに戻せばいい」という誤解

クラウド障害のニュースを受けて、「クラウドサービスが停止するなら、オンプレミス(自社保有のITインフラ)に投資すべきではないか」と考える経営者も存在します。しかし、この考え方には論理的な誤解が含まれています。

AWSやAzureのようなクラウド事業者は、世界規模で数十億ドル単位の投資を行い、以下のような高水準のセキュリティと可用性の仕組みを提供しています。

  • データセンターの物理セキュリティ(入退室管理、監視カメラ、耐震・防火設備)
  • ネットワーク冗長化(複数回線、DDoS防御、専用ファイアウォール)
  • 暗号化と鍵管理(KMSやHSMによる鍵管理、暗号化通信)
  • 自動バックアップとクロスリージョンレプリケーション(別地域へのデータ複製)
  • 24時間体制のセキュリティチームによる脆弱性対応
  • 認証基盤(IAM、MFA、ゼロトラスト設計)

これらの機能をオンプレミス環境で再現するためには、データセンターの建設・運用費用、専門人材の確保、監視システム、冗長回線、セキュリティ製品の導入など、多額のコストが必要となります。

【概算イメージ】

  • データセンター建設:数億円~数十億円
  • ネットワーク冗長化:専用回線+DDoS対策で年間数千万円
  • セキュリティ製品(FW、IDS、暗号化):初期導入で数千万円+保守費用
  • 運用人件費:24時間監視体制で年間数千万円
  • バックアップ・DRサイト(災害対策サイト):別拠点構築でさらに数億円規模

結果として、AWSが月額数十万円~数百万円で提供する水準をオンプレミスで実現するには、初期投資で数億円、年間維持費で数千万円以上が必須となります。したがって、「クラウドの利用を停止し、オンプレミスへ戻す」という選択肢は、コスト効率の面だけから見ても、現実的な選択肢ではないのです。

帯邉 昇

執筆者

株式会社MU 営業部

帯邉 昇

新卒で日本アイ・ビー・エム株式会社入社。ソフトウェア事業部でLotus Notesや運用管理製品Tivoliなどの製品担当営業として活動。その後インフォテリア株式会社、マイクロソフト株式会社で要職を歴任した。キャリア30年のほとんどを事業立ち上げ期のパートナーセールスとして過ごし、専門はグループウェアやUC、MA、SFA、BIなどの情報系で、いわゆるDXの分野を得意とする。(所属元)株式会社エイ・シームジャパン。