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生成AIに文章の下書きや資料の骨子を頼みながら、ふと「この感覚、前にも味わったことがある」と思うことはないでしょうか。便利になったという実感と、どこかで見た光景を繰り返しているような感覚が、同時に湧いてくる。あの既視感です。
生成AIを仕事で使う場面が増えた今、この既視感の正体を確かめておくことには意味があるのではないか。こう考えてたどっていくと、行き着くのは20年ほど前、オフィスで盛んに語られていた「効率化」という言葉でした。
この記事では、当時のExcelやメールを使った効率化と、今のAI活用を見比べながら、何が変わり、何が変わっていないのかを整理します。AIに感じる既視感の正体を探りながら、道具に振り回されないための視点が手に入いれていきましょう。
【本記事の要点】
- 生成AIに感じる既視感は、20年前に「効率化」という言葉で新しい道具が語られた時代と重なっている
- 変わったのは、道具を使い始めるための敷居の低さと、形になるまでの速さである
- 変わらないのは、何を効率化したいのかを決めるのが人間だという構図である。ツールを入れただけでは、仕事は自動的に楽にならない
- 効率を求める気持ちは根深く、道具がAIに変わっても消えない。だからこそ、何を楽にしたいのかを自分の言葉で持つことが大切である
20年前の「効率化」と今のAI活用で変わったこと
20年前の効率化ブームと今のAI活用を並べたとき、最初に目につくのは、道具を使い始めるまでの距離の違いです。まずは、当時のオフィスの様子から順に思い出し、今の生成AIと見比べてみましょう。
20年前の「効率化」を支えたExcelとメール
2000年代半ば、日本のオフィスでは「効率化」という言葉が、あちこちで語られていました。
- 手書きの集計表がExcelのマクロ
- 紙の回覧板がグループウェア
- 電話や口頭での連絡がメール
同時に、この時代は検索エンジンが普及し、「調べる」という行為そのものの手間が大きく減った時期でもありました。
当時、これらのツールを使いこなすには、それなりの専門知識が必要でした。Excelのマクロを組める人は限られていましたし、グループウェアの設定も専門の担当者に頼ることが多かったはずです。
つまり、20年前の効率化は、道具を使う人と、道具を整える人が分かれたうえで進んでいたのです。それでも「これでもっと楽になる」という期待は、オフィス全体に広がっていました。期待が現場で実際の成果になるかどうかは、使いこなせる人がどれだけいるかに左右されていた、と言ってもよいでしょう。
AIに向けられる「効率化」という言葉
今、私たちは同じ「効率化」という言葉を、生成AIに向けて使っています。ただ、その生成AIの使い方は、登場から今までの間に大きく変わりました。
登場して間もないころは、求める答えを得るために、ある程度決まった型に沿って指示を書く必要がありました。いわゆる「プロンプトエンジニアリング」です。
それが今では、普段話している言葉に近い形で伝えるだけで、通じるようになりました。音声で話しかけるだけで、欲しい答えが得られる場面も増えています。
文章や資料の形になるまでも速く、頼んでから数分で叩き台が手元に届くことも珍しくありません。専門知識がなくても、設定の手間をかけなくても、誰もがその場で使い始められます。
使い始めるための壁と、形になるまでの時間。この2つが下がったことが、20年前との最大の違いです。
変わらないもの|効率を求める人の気持ち
ただし、道具が変わっても変わらないものがあります。それは、「何を効率化したいのか」を決めるのは結局のところ人間だという構図と、効率を求める人の気持ちそのものです。
ツールを入れただけでは楽にならない構図
20年前も今も、ツールを導入しただけで自動的に仕事が楽になったわけではありません。何のために使うのか、どこを楽にしたいのかを自分で言語化できていなければ、どれほど便利な道具を手にしても、宝の持ち腐れです。
たとえばExcelがあっても、何を集計して何を知りたいのかが決まっていなければ、空の表が広がるだけでしょう。生成AIも同じで、何を頼みたいのかが定まっていなければ、返ってきた文章や資料をどう評価してよいのかさえ分かりません。
つまり、誰でも使い始められることと、使いこなせることは別なのです。そして今、その違いが、人と人の間の差として表れ始めています。
20年前、差をつけたのは道具の扱い方でした。Excelのマクロを組める人と、組めない人。専門知識の有無が、そのまま成果の差になっていました。
しかしAI時代の今は、道具の扱い方自体はほとんど壁になりません。雑に話しかけるだけでも、AIはちゃんと仕事をしてくれます。その代わりに、何を楽にしたいかという目的意識の違いが、新たな壁になっているのではないでしょうか。
メールの下書きや資料の骨子づくりなど、頼めることは無数にあります。その中から、自分の仕事や生活のどこを軽くしたいのかを描ける人は、AIを効率化の道具として使い込んでいきます。描けない人は、知りたいことを尋ねるだけの、検索エンジンの代わりにとどまり続けてしまうのです。
若い世代に根づく効率志向
この「効率を求める気持ち」そのものは、実はかなり根深いものです。たとえば、以前、当サイトではデジタルネイティブ世代の価値観について取り上げました。
生まれたときからデジタル機器が身近にあった若い世代は、デジタルツールをまるで箸を使うかのようにごく自然に使いこなします。費用対効果や投資対効果、あるいはコスパやタイパという言葉も、日常会話のなかで自然に使っているのです。
デジタルネイティブ世代は、非効率な作業のやり方を前にすると、「なぜこんなに時間がかかるのか」と理解しがたいものとして受け止めがちです。効率を求める気持ちは、若い世代にとって、もはや本能的な水準にまで根を下ろしているのかもしれません。
だとすれば、この気持ちは、今の若い世代だけのものではありません。20年前、Excelやメールに「これでもっと楽になる」と期待をかけていたのは、当時まだ若手だった私たちの世代です。
デジタルネイティブ世代も、20年前に若手だった私たちも、生まれた時代は違っても、効率を求める世代であることに変わらないのかもしれません。その気持ちを向ける道具が、Excelやメールから、AIに替わっただけ、なのです。
まとめ:道具は変わっても、効率を求める気持ちは変わらない
20年前の「効率化」ブームと今のAI活用を並べてみると、変わったのは主に道具を使うための敷居の低さであり、「何を効率化したいかを決めるのは人間である」という構図そのものは変わっていないことが見えてきます。
生成AIはたしかに、これまでのどの道具よりも簡単に使い始められます。しかし、それを使って何を楽にしたいのかを自分の言葉で持っていなければ、20年前と同じように、道具だけが手元にあって成果は変わらないという状態になりかねません。
今使っているAIツールで、本当は何を「効率化」したかったのか。一度、自分の言葉にしてみることが、道具に振り回されないための、20年前から変わらない出発点になるのではないでしょうか。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。

