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自社でDX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AI活用に地道に取り組んできた経営者や管理職の方から、「自分のこの経験、副業として社外でも活かせないだろうか」と相談を受ける機会が増えています。ただ、いざ動こうとすると、資格や肩書がないため自信を持ちきれない、AIコンサルという言葉には少し怪しさも感じる、という声も同時に返ってきます。
こうした不安の背景には、「AIコンサル」と聞くと、最新のツールやモデルの性能に詳しい人を思い浮かべてしまう、という思い込みがあるようです。しかし実際には、ツールの情報そのものは検索すればいくらでも手に入ります。それでも導入に苦戦する中小企業が後を絶たないという状況において、自社でAI活用をある程度形にしてきた経験者は、他社の経営者にとって非常に頼りになる存在になり得るのです。
本記事では、経営者や幹部の現場経験が副業スキルとしてどう価値化できるのか、需要の実像、売り方の選択肢と単価感、制度上の注意点、そして経験を「売れる型」に分解する具体的な手順までを整理します。
【本記事の要点】
- 副業AIコンサルで価値になるのは最新ツール知識ではなく、AIを現場に入れるときの摩擦を知っている経験である
- 生成AI活用は大企業先行で中小企業は遅れており、同じ立場を経験した経営者に「翻訳者」としての機会がある
- スポット相談、壁打ち、業務棚卸し、社内勉強会など、小さく始める選択肢から入るのが現実的である
- 副業を始める前に、本業との利益相反、守秘義務、労務管理、確定申告を整える必要がある
副業スキルを取り巻く前提が変わりつつある
まず、副業としての知見販売が話題になる背景を、公的データで確認します。中小企業経営者の経験が副業スキルとして意味を持つのは、AI活用の格差と副業インフラの成熟という2つの流れが同時に進んでいるためです。この流れを個々の肌感覚ではなく、数値で状況を押さえておくと、副業として取り組む判断もしやすくなります。
生成AI活用は大企業先行で、中小企業には空白がある
総務省の令和7年版情報通信白書(2025年7月公表)では、日本の個人の生成AI利用経験は2024年度調査で26.7%まで伸びていますが、中国81.2%、米国68.8%、ドイツ59.2%と比べれば依然として低い水準です。
また、情報通信総合研究所が2025年9月に公表した調査では、従業員規模が大きいほど生成AI導入・利用率が高く、従業員300人未満の企業では全社導入が約5%にとどまると指摘されました。
つまり、生成AIは大企業から先に浸透しており、中小企業には「使いこなす前段階」の悩みが積み残されている状態です。この非対称性こそが、中小企業経営を経験した人にとっての副業機会になります。
出典・参照:
副業を認める企業と副業人材を求める中小企業の両方が増えている
パーソル総合研究所の『第四回副業の実態・意識に関する定量調査』(2025年10月公表)によれば、企業の副業容認率は64%と過去最高を更新し、副業の平均時給は3,617円で2023年比24%上昇しています。
一方、中小企業庁の2025年版中小企業白書は、副業がある人や追加就業を希望する人が10年間で増えている反面、中小企業側の副業・兼業人材の活用は約2割にとどまり、人材不足解消のための活用余地があると整理しています。売る側と買う側の双方で下地は整いつつあるものの、実際のマッチングは追いついていない、というのが今の実像です。
出典・参照:
なぜ経営者の「現場の知恵」がAI時代に売れるのか
副業として売れる知見は、AIそのものの解説ではなく、AIを現場に入れるときに起きる人間側の摩擦への理解です。中小企業経営や現場マネジメントの経験を持つ人は、この摩擦を身体で分かっているという点で、若手エンジニアや大規模組織向けコンサルにはない強みを持ちます。ここではその中身を3つの角度から掘り下げます。
中小企業が本当に困っているのは技術ではなく人と業務の摩擦
中小企業庁の2021年版中小企業白書では、中小企業のデジタル化推進の課題として、次の点が挙げられています。
- 組織のITリテラシー不足
- アナログな文化や価値観
- 長年の取引慣行
生成AIが新しく登場しても、この構造は変わりません。プロンプトを書ける人よりも、「なぜ現場が動かないか」を言葉にできる人の方が、中小企業経営者にとってはありがたい存在です。ここに、社員説得や業務調整で苦労してきた経営者の経験が効いてきます。
出典・参照:
「使われないツール」の共通点を体験として知っている
ツール導入が定着しない現場には、共通するパターンがあります。
- 決裁の速さに現場の運用整備が追いつかない
- 既存業務との重複を放置したまま新ツールを乗せる
- 担当者ひとりに運用が集中する
- 経営会議で使う数字と現場の数字が別で動く
こういった構造です。これらを本で読んで理解した人ではなく、実際に自社で経験して乗り越えた人の言葉は、他社の経営者にとって説得力を持ちます。副業スキルの核は、この「先に失敗を通ってきた」という履歴そのものです。
経営者の孤独と迷いは、経営者にしか翻訳できない
経営者は、社員に見せられない迷いや、取引先との調整、資金繰りとの兼ね合いを抱えながら、DX投資の判断を下します。同じ立場を経験した人であれば、こうした背景を前提に会話が成り立つでしょう。
しかし、専門の技術者に頼むと「まずデータ基盤を」と正論が返ってきて話が止まる、大規模組織向けの提案書が出てきて実行できない、といった経験を持つ経営者は多いはずです。副業として現場感のある伴走を提供できるのは、経営の重さを分かる人だけです。
経営者の副業スキルを言語化する6つの視点
自分の経験を副業スキルとして棚卸しするときには、抽象的な自己PRではなく、具体的な視点を持って分解すると整理しやすくなります。ここでは6つの視点を提示します。すべてを満たす必要はなく、どこに強みがあるかを見つけるための地図として使ってください。
視点1:失敗を先に通ってきた経験
高額なツールを導入したものの現場に定着せず解約した、というような失敗体験は、同じ轍を踏みたくない他社にとって価値ある知恵です。成功事例より失敗事例の方が、実は他社の意思決定を助けます。
視点2:現場が動かない理由を分解できる力
「なぜやらないのか」を人格の問題にせず、業務フロー、評価制度、ツール操作性、上司の関与度合いといった構造で語れると、他社の相談にも冷静に対応できます。
視点3:社長と社員の温度差を扱える視点
社長だけが盛り上がるDXは失敗します。経営者はこの温度差を実感として知っており、経営会議と現場ミーティングの橋渡しを言葉にできます。
視点4:安いツールで回る業務と、投資が必要な業務の見分け
すべてに高額ツールを入れる必要はありません。無料ツールと表計算で回せる業務と、投資すべき業務の線引きを実務で経験している人は、他社の予算配分に助言できます。
視点5:ROIを定着率と現場負荷まで含めて考える視点
金額換算だけのROIは、現場では通用しません。定着率、運用担当者の負荷、教育コスト、心理的抵抗までを含めて費用対効果を語れる人は希少です。
視点6:経営判断の孤独に寄り添える経験
「決めきれない」「役員会で説明できない」「投資判断が怖い」といった感情の部分に踏み込めるのは、同じ経験を持つ人だけです。ここは資格では代替できない領域です。
副業として売る形:小さく始める選択肢と単価感
副業を始めるとき、いきなり高額の顧問契約を目指す必要はありません。小さな相談から始め、経験を型にしながら提供範囲を広げていく順序が現実的です。ここでは代表的な売り方と、公表情報から読み取れる単価感を整理します。相場感はあくまで目安であり、案件内容と自分の立場によって幅があります。
以下の表は、副業として始めやすい売り方と、公表資料や業界メディアで示されている単価の目安をまとめたものです。表の後に、どこから着手するとよいかの読み方を添えます。
| 売り方の種類 | 提供内容の例 | 単価感の目安 |
|---|---|---|
| スポット相談・壁打ち | 1時間の経営者向け相談、AI活用の壁打ち | 1時間1万円〜3万円程度 |
| 業務棚卸しの伴走 | 対象業務の洗い出しとAI適用箇所の絞り込み | 半日〜1日で数万円〜十数万円 |
| 社内勉強会・研修 | 経営層や部門長向けの生成AI活用勉強会 | 1回数万円〜十数万円 |
| 継続顧問・月次伴走 | 月次で経営会議への同席や進捗レビュー | 月数万円〜数十万円 |
| プロジェクト単位のコンサル | 特定テーマの半年伴走、業務改革の並走 | 月額数十万円〜(案件により差) |
読み方としては、まずスポット相談や業務棚卸しの伴走から始めるのが安全です。1時間単位の相談は本業への負荷が小さく、契約書もシンプルにまとめやすいという利点があります。
一方で、継続顧問やプロジェクト単位の案件は、収益は伸ばしやすいものの、時間拘束と守秘義務の負荷が上がるため、本業とのバランスを見て段階的に広げるのが現実的です。
マッチングを担う事業者としては、ビザスク、みらいワークス、HiProなどが知られていますが、まずは既存の人脈経由の紹介から始める人も多いのが実情です。
出典・参照:
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。

