新端末に賭けるダークホース|Even Realities・OpenAI・Rabbit
正式ノミネート外にも、見過ごせないダークホースがいます。ここで取り上げるのは、既存の巨大企業とは別の形で「スマホの次」の入口をつくろうとしている3社です。
カメラを持たないAIグラスで急成長するEven Realities、AIモデル企業からハードウェア企業への転身を図るOpenAI、AI専用端末というカテゴリそのものの成否を占うRabbitについて、本章では詳しく見ていきましょう。
Even Realities
Even Realitiesは、2023年創業のスタートアップながら、2026年7月にMeituanとTencentが主導する1億5000万ドルの資金調達を実施し、評価額は10億ドルに達しました。創業者のウィル・ワン(Will Wang)は、Apple Watchの開発にも携わった元アップル社員です。
主力製品のEven G2は、カメラを搭載しないという設計が特徴で、価格は599ドル、専用リング型コントローラー「Even R1」や度付きレンズを加えると、平均的な購入額はおよそ1000ドルに達します。
カメラを持たないぶんプライバシーへの懸念が小さく、企業向け需要にも支持が広がっています。MetaのAIグラスが「AIに目と耳を与える眼鏡」だとすれば、Even Realitiesは「人間の視界にAIの情報を映し込む眼鏡」であり、両社は似て非なる方向を追っています。
出典・参照:
OpenAI
OpenAIは、AIモデル企業がハードウェア企業へ変わろうとする、最大のダークホースです。2025年5月、ジョニー・アイブ(Jony Ive)が率いるハードウェアスタートアップ「io Products」を、全株式交換で約65億ドルを投じて買収しました。
画面をほとんど持たない、常時接続の音声中心のAIネイティブ端末を計画し、当初は2026年後半の発表を目指していましたが、2026年に入って発表は2027年2月以降へ延期されています。「io」という製品名も採用しないことが決まりました。
ChatGPTを使う端末ではなく、ChatGPTそのものがインターフェースになる端末が登場したら何が起きるのか。この問いへの答えは、まだ市場に出ていません。
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Rabbit
Rabbitは、AI専用端末というカテゴリそのものが成立するのかを検証する存在です。2024年に発売された199ドルの専用端末「Rabbit R1」は、2025年9月に大型アップデート「rabbitOS 2」を公開しました。9to5Googleによると、同社は「初期の構想と実際の体験のあいだにはギャップがあった」と認めたうえで、OSを大きく作り直しています。
操作は、トランプのデッキをめくるように機能を選ぶカード型に変わりました。目玉は「creations」機能で、端末に話しかけてAIエージェントに指示すると、簡単なツールやゲームが数分で作られます。スマートフォンの代わりではなく、AIを手軽に呼び出すための専用端末として作り直す動きです。Rabbitについては、「スマートフォンを置き換えない専用端末に、居場所はあるのか」という問いが成立します。
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日本企業の立ち位置|ソニーの動きと周辺動向
日本企業をこの部門の正式ノミネートやダークホースへ無理に加えることはしません。ただし、次世代インターフェースを支える感覚・映像・身体入力の技術という観点では、日本企業のなかでもソニーの動きが見逃せません。あわせて本章では、ソニーの技術を取り巻く動きにも目を向けます。
ソニーが力を入れているのは、完成品としてのスマートグラスやAI専用端末ではありません。次世代インターフェースの中身にあたる、次の3つの技術です。
- 身体入力:小型センサーを体に装着して全身の動きを取り込むモーションキャプチャー機器「mocopi」
- 現実の取り込み:撮影した現実の空間や物を3DCGアセットへ変換するXYN「空間キャプチャーソリューション」。2026年4月に法人向けの提供が始まった(国内は4月18日)。ゲーム、アニメ、映画、建築、デジタルツインなどでの活用が想定されている
- 映像表示:ARグラスやVRヘッドセット向けのOLEDマイクロディスプレイ。ソニーセミコンダクタソリューションズが手がけている
いずれも、消費者に完成品として売る製品ではありません。AIに触れる新しい端末の中身と、そこで動く3D映像の制作現場を支える技術です。
この技術は、すでに他社の製品や現場に入り込んでいます。ソニーセミコンダクタソリューションズの0.55型マイクロOLEDは、XREALのARグラス「XREAL Air 2 Pro」で採用。mocopiも、米カリフォルニア大学サンディエゴ校のXRシアターで活用されているのです。
次世代インターフェースの覇権を完成品の販売台数だけで測ると、ソニーの存在は見えにくくなります。日本企業は次の端末そのものを握るのか、それとも次世代インターフェースに不可欠な部品・感覚技術を握るのか。ソニーの動きは、後者の道が具体的な製品としてすでに動き始めていることを示しているのです。
「日本はこの分野で強い」と一括りにはできませんが、完成品の覇権とは別の形で、欠かせない存在になる道は開けていると考えてよいかもしれません。
出典・参照:
- Sony is getting behind XYN and Mocopi to help developers make spatial content/GamesBeat
- UC San Diego Uses Sony Spatial Reality & Mocopi for XR Theater/Sony Professional
- 現実空間を高品質3DCGアセットとして生成・活用。XYN「空間キャプチャーソリューション」を法人向け提供開始/ソニー
- ソニー、「XYN」の空間キャプチャーソリューションを法人向けに提供/MONOist
- OLEDマイクロディスプレイ/ソニーセミコンダクタソリューションズ
- 【西田宗千佳のRandomTracking】XR時代のディスプレイ。ソニーセミコンに聞く「マイクロOLEDとはなにか」/AV Watch
まとめ:次の時代、人間が最も長く触れているAIは、どの企業のデバイスに宿るのか
本記事で見てきたのは、「スマホの次に何が売れるか」という単純な予想ではありません。人間とAIの最前線にある「入口」を誰が握るかという競争です。
Apple、Meta、Google、Samsung、Qualcommという5社は、それぞれ異なる形で「スマホの次」に備えており、なかでもAppleのMac miniとMetaのAIグラスは、需要が供給を上回るという、まだ多くの企業が到達していない段階にすでに入っています。
さらに、Even Realities、OpenAI、Rabbitといったダークホースは、既存の巨大企業とは異なる切り口から、それぞれの答えを市場へ問いかけているのです。一方で、専用AI端末というカテゴリが成立するかどうかは、まだ証明されていません。
スマホ、PC、眼鏡、イヤホン。あるいはまったく新しい専用端末。どの形になるとしても、その入口を握る企業は、AIモデル企業とは別の意味で、次のビッグテック覇権を握る可能性があります。次の時代、人間が最も長い時間触れているAIは、どの企業のデバイスに宿るのでしょうか。
次回、シリーズ第7回では、AIが現実世界で行動する「身体」を扱う、フィジカルAI部門を取り上げます。ロボタクシーやヒューマノイドなど、AIが身体を持ったとき、覇権を握るのはどの企業なのかを考察します。
デバイス・次世代インターフェース部門 ノミネート一覧
| 企業・組織 | 区分 | ひとこと |
|---|---|---|
| Apple | 正式ノミネート | Mac mini・Mac Studioが常時稼働AIエージェント端末として品薄になるほどの需要を集める |
| Meta | 正式ノミネート | Ray-Ban Displayが需要過多で国際展開を一時見合わせるほどの人気 |
| 正式ノミネート | Android XRというOS展開モデルをヘッドセットからスマートグラスへ拡大中 | |
| Samsung | 正式ノミネート | Galaxy XRを起点に、既存Galaxyユーザーを新しいAI体験へ移行させる戦略 |
| Qualcomm | 正式ノミネート | Snapdragon XR2+ Gen2とAR1の2系統チップで、ヘッドセットからグラスまでの基盤を握る |
| Even Realities | ダークホース | カメラ非搭載のEven G2で急成長、評価額10億ドルのユニコーンに |
| OpenAI | ダークホース | Jony Ive買収によるAIネイティブ端末構想は2027年へ延期 |
| Rabbit | ダークホース | AI専用端末カテゴリの成立可否を占う存在、rabbitOS 2でAIを呼び出す専用端末へ作り直しを図る |
| ソニー | 日本企業 | mocopi・XYNで次世代インターフェースの制作基盤技術を提供 |
執筆者
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DXportal®編集部
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