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社員の顔色の変化や幹部の返信の遅れには気づけるのに、自分の疲労だけは見えなくなっている、そう感じている経営者は多いのではないでしょうか。多くの軽視者は、責任感と緊張感で走り続けています。だからこそ、限界が近づいても「まだ大丈夫」と判断してしまうことは少なくないでしょう。
2025年に成立した改正労働安全衛生法により、従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されることが決まり、2026年5月には施行日が2028年4月1日に定まりました。しかし、従業員のメンタルケアは制度化が進む一方、経営者本人は労働者ではないため対象外で、健康管理の空白地帯に置かれたままになっています。経営者は自身で気をつけていない限り、自己メンタルケアを行うことはできないのでしょうか。
そんな、毎日戦い続けている経営者のため、本記事では、生成AIを「精神のバイタルチェック」として使う考え方を紹介します。メールの語調、深夜の連絡、意思決定の先送りといった行動ログから、普段の自分とのズレを可視化する発想です。貴社の今後の繁栄を守るためにも、まずは経営者本人のコンディションから見直す1つのヒントを感じてください。
【本記事の要点】
- 経営者は責任感と孤独ゆえ、自分の疲労の兆候を見落としがちな構造にある
- 2025年の制度改正で従業員のケアは進むが、経営者本人は制度の谷間に残る
- 生成AIは診断装置ではなく、普段の自分からのズレを映す鏡として使うのが現実的である
- 判定を過信せず、公的セルフチェックや専門家相談と組み合わせる二層構えが安全である
経営者が自分の疲れに気づけない構造
社員の異変には目が届くのに、自分の異変には気づけない。これは多くの経営者に共通する問題です。責任、孤独、意思決定の連続は、疲労の自覚を鈍らせます。この章では、なぜ経営者ほど自分の疲れに鈍感になってしまうのかを整理していきましょう。
責任と緊張感が疲労の自覚を上書きする
人は緊張状態にあるとき、体の疲労信号を後回しにできてしまいます。経営者は資金繰り、人事、営業と休みなく判断を求められ、緊張感で走り続ける状態が常態化しています。その結果、限界が近づいていても「まだ動ける」と自己判断し、疲労の自覚を上書きしてしまうのです。
相談相手のいない孤独が兆候を隠す
未来塾が2022年に行った調査では、経営者の4割以上が「経営の悩みを相談できる人がいない」と回答しました。さらに、半数近くが「相談したい」と回答しています。この調査結果が示す「経営社が悩みを相談する相手がいない」状態では、自分の変調を他者の視点で確かめる機会も減っていくのは致し方ありません。
出典・参照:
制度の谷間に落ちる経営者本人
法的な制度改革も手伝い、企業にとって「従業員」のメンタルケアは体制は、規模の大小にかかわらず整いつつあります。ところが、経営者本人は「労働者」に該当していないため、こうした法定ストレスチェックからは対象外となってしまうのです。この章では、2025年の制度改正で強まる経営者の空白地帯を確認します。
従業員50人未満にも義務化される方向
労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務だった従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化されることが決まっています。2026年5月の労働政策審議会安全衛生分科会では、具体的な施行日が2028年4月1日と示されました。現在は、中小企業は施行日に向けた準備期間が残されている状況です。
経営者は労働者ではないため対象外
経営者や個人事業主は労働者に当たりません。当然ながら、法定ストレスチェックの対象外です。つまり、「従業員は守られるが経営者は守られない」という構造の谷間が広がってしまうのです。厚生労働省の資料でも、経営難や過労、孤立、相談先の欠如が経営者の自殺リスク要因として挙げられており、経営者本人のケアが公的にも課題として認識されています。
出典・参照:
「精神のバイタルチェック」という発想
血圧や体温は毎日測れますが、精神状態は数値化しにくいものです。そこで有効なのが、行動ログから普段とのズレを可視化するという発想です。この章では、精神のバイタルチェックという考え方を紹介します。
疲れてから休むではなく、ズレを捉えて立ち止まる
疲労が深刻化してから休むのでは遅すぎます。狙うべきは、普段の自分と比べて何かが違う、というわずかなズレを早期に捉えることです。
- メールの語調
- 深夜や休日の連絡回数
- 予定変更
- 会議時間
- 意思決定の先送り
こうした行動ログにはコンディションの変化が滲んで見えるものです。行動ログが示す疲労の予兆を捉え、余裕を持って休みを取ることは、企業発展の観点からも欠かせません。
行動ログを「鏡」に変える
日々の行動を書き出して自分で見返すのは骨が折れます。そこで生成AIを、行動ログを整理して普段との違いを言い当てる「鏡」として使う発想が生まれます。ただし、AIは専門医ではありません。そのため、「休むべきか」を決めるのはAIの役目ではないことはあらかじめご注意ください。AIは、あくまでも本人が働き方を見直す気づきを差し出す役目にとどめ、少しでも不安を感じたら、専門医などの意見を聞くことを推奨します。
AIを鏡として使う具体的な使い方
実際に生成AIをどう使えばよいか、経営者本人が今日から試せる方法を整理します。ここでの入口は手元のChatGPTなどに毎朝一問話すだけです。
朝1問プロンプトで状態を言語化する
朝の数分で、以下5項目を生成AIに報告する運用が有効です。
- 昨夜の睡眠時間と眠りの深さ
- 食欲の有無
- 仕事への意欲の強さ
- 涙もろさや感情の揺れ
- 苛立ちや怒りの閾値
これを1週間続けると、AIが「先週より睡眠が短くなっています」「意欲の低下傾向が3日続いています」と傾向を返してくれます。数値化ではなく、言葉での振り返りが目的です。
行動ログとの突き合わせで気づきを深める
送信済みメールやチャットの語調、カレンダーの予定変更履歴を貼り付け、「普段と比べて口調がきつくなっていないか」「深夜稼働が増えていないか」をたずねる使い方も有効です。自分では気づけない小さな変化を、AIが第三者の視点で言い当ててくれます。
AIに任せてはいけない領域と注意点
AIによるバイタルチェックは、たしかに便利な発想です。しかし、AIを万能扱いすると危険が伴うのも事実です。この章では、AIバイタルチェックの限界と、経営者本人が押さえるべきリスクを整理します。
判定を過信しない、正常表示でも安心しない
生成AIは統計的に言葉を並べる仕組みで、医学的な診断はできません。「問題なし」と返っても症状がないとは限らず、逆に不安を煽る出力にも根拠がない場合があります。OpenAIも2025年10月、ChatGPTで週に約120万人が自殺兆候を含む会話をしていると公表したうえで、センシティブな会話への応答強化を続けており、AIを治療の代替とはしない立場を明確にしています。
長期依存とプライバシーへの配慮
Forbes JAPANは、生成AIをメンタル相談相手として長期利用することが、うつや不安のリスクを高めうるとする研究知見を紹介しています。相談はAIだけ頼り切らず、家族や信頼できる第三者、専門家へも訊くべきです。
加えて、社用アカウントや共有デバイスでの入力は情報漏えいの経路になり得ます。個人の有料アカウントで学習をオフにする、機微な固有名詞はぼかす、保存先を管理する、といった運用ルールを事前に決めておくとよいでしょう。
社員監視への転用は避ける
同じ発想を社員のメールやチャットに広げると、監視の道具になりかねません。あくまで経営者本人が自発的に、自分の行動ログを対象にするという原則を意識しておきましょう。
出典・参照:
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。


