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新幹線建設が計画から大きく遅れ、費用も膨らんでいる。そうした報道を目にするたびに、私は同じ疑問を持ちます。なぜ、こうしたプロジェクトは、途中で誰も「一度立ち止まろう」と言い出さないのだろうか、と。
この「止められなさ」は、新幹線に限った話ではありません。この記事では、その正体を、自社のDX推進に引き寄せて考えます。
計画のずれと失敗の違い
大規模なプロジェクトが、当初の見通しどおりには進まないことは、実はよく見かけます。北陸新幹線・北海道新幹線をめぐる報道でも、当初の計画から遅れ、費用も膨らんでいると伝えられています。
ここでは、国のお金の使い方が正しいかどうか、誰が責任を取るべきかという話を論じるつもりはありませんが、大事なのは、これが新幹線に限った話ではないということです。
企業のDX推進の現場でも、当初は「この業務の負担を減らしたい」「この判断をもっと速くしたい」という、はっきりした目的があったはずのプロジェクトが、進めているうちにいつの間にか「予定通りに進めること」自体が目的になっている。そんな場面を、私自身企業のDXを支援する中でしょっちゅう目にしてきました。
計画通りに進んでいないこと自体は、失敗の証拠でもなんでもありません。大きなプロジェクトであればあるほど、当初の見立てが甘かった部分は必ず出てきますし、途中で状況が変わることもあるでしょう。
問題なのは、計画がずれること自体ではなく、そのずれが生じた瞬間に「そもそも何のために、このプロジェクトを始めたのか」を問い直す機会を、自分たちで作れているかどうかにあるのです。
出典・参照:
「進めること」自体が目的になる理由
では、なぜ人や組織は、いったん走り出したプロジェクトを止められず、「進めること」自体を目的にしてしまうのでしょうか。理由は1つではありません。
最も分かりやすいのは、すでに投じた時間や費用を惜しむ心理(サンクコスト)です。「ここまで進めたのだから」という理由だけで前に進み続けてしまうのは、決して珍しいことではありません。立ち止まって見直せば、それまでの投資が無駄になるように感じられ、走り続けるほうが心理的には楽なのです。
この「サンクコスト」が「やめる」を難しくする構造については、コチラの記事も参考にしてください。
もう1つ、見落とされがちな理由があります。それは、当初の目的が、言葉としてきちんと残されていないことです。「この業務の負担を減らしたい」という思いがあっても、それが関わる人たちの間で明文化され、共有されていなければ、進捗の遅れに直面したときに立ち返る先そのものがありません。
そのため、目的が曖昧なまま走り出したプロジェクトは、遅れても「そもそも何を実現したかったのか」を確認するすべがなく、「予定通りに進める」ことだけが、唯一の判断基準として残ってしまうのです。
さらに、見直す場そのものが、最初から用意されていないという事情もあります。進捗を確認する定例会議はあっても、「そもそもの目的に立ち返り、続けるかどうかを判断する場」が制度として組み込まれているプロジェクトは、多くありません。見直す場がなければ、誰も「一度立ち止まろう」とは言い出しにくいものです。
「立ち止まる機会」を仕組みにする視点
ここまで挙げた理由に共通するのは、「止める・見直す」という判断が、誰か1人の勇気や気づきに委ねられてしまっている点です。担当者や責任者が「そろそろ目的に立ち返って確認しよう」と言い出さない限り、プロジェクトは惰性で進み続けてしまうでしょう。
自社のDX推進に置き換えると、この構造はさらに見えやすくなります。ツールの導入や業務フローの変更は、いったん決裁が下りればプロジェクトとして動き出しますが、その後「これは今も、何のために続けているのか」を確認する機会が、あらかじめ仕組みとして組み込まれている会社は、決して多くありません。
進捗確認の会議はあっても、それは「予定通り進んでいるか」を確認する場であって、「そもそも何のために始めたのか」を問い直す場にはなっていないことがほとんどでしょう。
だとすれば、責められるべきは、言い出せなかった担当者ではありません。言い出す場が、そもそも用意されていなかったこと、それこそが問題なのです。もし今、あなたの頭に思い浮かんだプロジェクトがあるとしても、それはあなたの勇気が足りなかったからではないのではないでしょうか。
立ち止まることは、本来、誰かの勇気に頼る話ではないはずです。見直す場をあらかじめ持っているかどうか、それだけの違いです。それがあれば、計画のずれは「気づけないまま流されていくもの」ではなく、「目的に立ち返るきっかけ」に変わっていくはずです。
まとめ:進捗より先に、「何のため」を問い直す
計画がずれること自体を恐れる必要はありません。むしろあなたが向き合うべきは、進捗の遅れをきっかけに、「そもそも何のために始めたのか」を、今も自分の言葉で説明できるかどうかです。
これは、新幹線のような大きなプロジェクトに限った話ではありません。あなたが今関わっているDXのプロジェクトでも同じです。「今、どこまで進んでいるか」ではなく、「これは、そもそも何のために始めたのか」と問われたとき、あなたは今も同じように答えられるでしょうか。その問いを、一度、自分自身に向けてみてほしいと思います。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。


