「完全な独立」は非現実的|世界の経営層が選ぶ、デジタル主権の妥協点【世界のDX潮流】

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「デジタル主権」や「クラウド依存からの脱却」という言葉を聞いても、大企業や国家の話に聞こえて、自社にどう関係するのか分かりにくいと感じていないでしょうか。

業務の多くを外部のクラウドに任せている以上、どこまで自社で持ち、どこから任せてよいのか、判断のよりどころがないまま使い続けているという方もいるかもしれません。

こうした「どこまで自社で持ち、どこから任せてよいか」の判断のよりどころとして参考になるのが、世界の経営層を対象にしたCapgemini Research Instituteの調査です。

この調査では、対象組織の93%でデジタル主権が取締役会レベルで議論されている一方、59%が「完全なデジタル主権」を現実的な目標ではないと回答しました。経営層が現実的とみているのは、すべてを自前で持つ道ではなく、重要な技術・データだけを選んで統制する「強靱な相互依存」という考え方です。

本記事では、この調査とSamsungとMistral AIの提携事例をもとに「強靱な相互依存」の中身を整理し、その考え方を中小企業の意思決定へ読み替える方法を解説します。止まると困る機能と漏れると困るデータを選び、そこに統制を集中して、外部に任せる領域は出口を確認しておく。自社のどこを手厚く守り、どこは任せてよいのかを見分ける、その手順がつかめます。

【本記事の要点】

  • Capgemini調査では、多くの組織が完全な独立より重要領域を選んで統制する考え方を現実的とみている
  • SamsungとMistral AIの提携は、機密データを社内に置きつつ外部AI企業と組む具体例として読める
  • 中小企業の問いは、クラウドの是非ではなく、止まると困る機能と漏れると困るデータを選んで統制し、外部に任せる領域は出口を確認することにある

デジタル主権で経営層が選ぶ「強靱な相互依存」:Capgemini調査とSamsung×Mistral AIの実例

重要なデータと機能を統制する中心部を、複数の外部サービスと管理された接続で結び、移行できる出口も確保する「強靱な相互依存」の図

この章では、重要領域だけを選んで統制する「強靱な相互依存」がどうとらえられているかを、Capgemini Research Instituteの調査結果と、Samsung ElectronicsとMistral AIの提携という実例から見ていきます。

Capgemini調査が示す「強靱な相互依存」

Capgemini Research Instituteが2026年9月8日に公表した調査報告『Digital Sovereignty: From Policy Ambition to Executive Imperative』は、次の条件で実施されたものです。対象が大企業・大規模な政府機関に限られる点を、先に押さえておく必要があります。

項目内容
実施時期2026年4月
対象地域米国、英国、欧州大陸6カ国、APAC4カ国(日本を含む)
回答者企業・政府機関に所属する経営・技術幹部1,300人
対象組織の条件企業は年間売上高10億ドル超、政府部門は年間予算10億ドル超

この調査から、主権への関心の高さと、完全な独立への冷めた見方が同時に読み取れます。取締役会では広く議論されている一方、「すべてを自前で持つ」ことは現実的でないと多くの組織が考えているということです。

論点調査結果
取締役会レベルでの議論調査対象組織の93%で議論がある
取締役会の最優先事項44%が位置づけている
完全なデジタル主権59%が現実的な目標ではないと回答
「強靱な相互依存」の方が現実的世界全体の3分の2(欧州75%、米国50%)

最後の「強靱な相互依存(resilient interdependence)」は、完全な技術的独立ではなく、重要技術を選んで統制しつつ戦略的パートナーシップを組み合わせる考え方を指します。

理想と実態の距離も、数字に表れています。同社が866組織を分析した「Digital Sovereignty Index」では、外部への依存が大きい一方で、その全体像を把握できている組織は少数でした。

分析項目結果
外国または外部の統制下にあるサプライチェーンへの大きな依存86%
依存関係をエンドツーエンドで可視化できている14%
重要な事業者から別の事業者への移行に12カ月超かかる36%
代替できる事業者がない10%
主権性を高めるための追加費用を払う意思がある半数弱(許容額は平均23%)

なお、Capgeminiはクラウド・DX支援サービスを自ら提供する事業者であり、中立的な統計機関ではありません。デジタル主権への関心の高まりは同社の事業機会とも重なるため、本記事では調査の出所を明記したうえで数字を扱います。

出典・参照:

Samsung×Mistral AIに見る「重要領域だけ統制する」実例

この考え方を具体的な形で示す動きがありました。同じ週の2026年9月8日に、Samsung ElectronicsはMistral AIとの戦略提携を発表したのです。この発表は、Mistral Largeを含むMistralのAIサービスをSamsungの半導体事業へ導入し、Samsungの半導体インフラ内で稼働するカスタムのオンプレミスAIモデルを共同開発するというものです。

狙いは、設計・製造に関する機密技術と操業データを社内境界の中に保ちながら、欠陥検出や装置最適化、開発サイクルの短縮、製造精度の向上にAIを活用することです。

これは「すべてを自前化するか、すべて外部に任せるか」ではなく、機密性の高いデータと実行環境は自社の境界内に置きつつ、外部のAI企業の技術力は積極的に借りるという、選択的な統制の実例として読めます。

ただし2026年9月15日時点で、導入規模や稼働時期、欠陥率・歩留まりの改善効果を示す続報は確認できていません。公式発表も「expected」「aims」「plans」といった将来形の表現を用いており、実証済みの成果ではなく両社が掲げる目標の段階にあります。

このタイミングでは、資金の流れと混同しないことも重要になります。Mistral AIは2026年9月、Samsung Electronics主導のシリーズDで30億ユーロを調達したと発表しており、これはMistral全体の資金調達ラウンドの総額です。Samsungから半導体事業へのAI導入費や、提携そのものの契約額ではありません。

出典・参照:

中小企業への当てはめ方:クラウドか自社保有かの二択にしない

クラウド利用か全面的な自社保有かの二択を避け、重要な機能とデータには統制を強め、外部に委ねる領域では出口を確認する考え方を示した図

Capgemini調査の数字を、そのまま中小企業に当てはめることはできません。調査対象は年商・予算10億ドル超の大企業・政府機関であり、地理的にも一部地域に限られています。中小企業にとって参考になるのは、割合の数字ではなく「限られた資源の中で、統制する対象に優先順位をつける」という考え方そのものです。

その意味で、現実的な問いは「クラウドを使うか、すべて自社保有に戻すか」ではありません。規模を問わず応用できるのは、次の4段階で考える方法です。

段階やること具体例
1. 止まると困る機能を特定する止まると事業そのものが止まる機能を洗い出す受発注、顧客対応、決済、生産指示など
2. 漏れると困るデータを特定する漏れると取り返しがつかないデータを洗い出す。保管場所や取り扱いに法令・契約上の制約があるデータもここに含める顧客・従業員情報、図面、見積原価、未公開の製品情報など
3. その領域だけ統制を強める1・2で挙げた領域に限り、複数の手段を組み合わせて統制するオンプレミス、専用環境、国内リージョン、アクセス制御、監査ログ、契約上のデータ利用制限など
4. 外部に委ねる領域の「出口」を確認する外部に任せる領域について、いつでも抜け出せるかを事前に確かめておくデータを標準形式で取り出せるか、代替できる事業者があるか、移行にかかる時間と費用はどれくらいか

1と2で「何を守るか」を絞り、3で「どう守るか」を決め、4で「任せた先から抜けられるか」を確かめる流れです。

低機密・低影響の業務まで同じ水準で固めようとすると、費用と管理の負担ばかりが増えます。一般的なクラウドサービスの利便性を使う領域と、重要領域として費用と管理能力を集中させる領域を、意識して分けることが現実的な出発点になります。

まとめ:主権は経営判断の問題である

デジタル主権は、データを国内に置くかどうかだけの話ではありません。調査対象組織の多くが現実的とみているのは、完全な独立でも、全面的な外部依存でもなく、重要な部分だけを見極めて統制を強める「強靱な相互依存」という考え方です。SamsungとMistral AIの提携も、その考え方を映す一例として読めます。

中小企業にとっての意味は、大企業の調査数値をそのまま自社に当てはめることではありません。止まると事業が止まる機能、漏れると取り返しがつかないデータを自ら特定し、そこに統制を集中させ、それ以外は出口を確保したうえで外部の力を借ります。デジタル主権は、セキュリティだけの課題ではなく、事業継続、契約、そして「委ねた先から抜け出せるか」という退出可能性まで含む、経営判断の問題ではないでしょうか。

DXportal®編集部

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