【指示待ちAIの正体】生成AIとの違いを専門家が教えるエージェント型(自律型)AIの裏側

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日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)は、今、大きな転換点を迎えています。

これまで、ChatGPTをはじめとする生成AIの登場により、AIと対話する体験は日常のものとなりました。しかし導入した企業の多くが、こちらが細かく指示を出し、出力結果を人間が確認して別ソフトへ転記しなければならないという、効率化の壁に突き当たっています。

この不満を解消し、AI活用のステージを劇的に引き上げる存在が「エージェント型AI(エージェンティックAI)」です。今回はITの専門家ではない経営者の方々に向け、従来のAIとの違いやビジネスを変える具体的な利用シーンを解説します。

【本記事の要点】

  • エージェント型AIは指示を待つだけでなく、自律的に思考し行動するデジタルな部下である
  • 複数のシステムを跨ぐ作業を自動で完結させ、中小企業の人手不足解消に大きく寄与する
  • 導入時は特定の繰り返される小規模な業務から開始し、徐々に権限を移譲するのが望ましい

生成AIとの違いを徹底解説!エージェント型AI(自律型AI)とは?

生成AIとの違いを徹底解説!エージェント型AI(自律型AI)とは?

エージェント型AIとは、目標を与えるだけで自ら手順を考え、外部ツールを操作して目的を達成する自律的なAIシステムを指します。従来のAIが「知識を授ける相談役」であったのに対し、エージェント型AIは「実作業を完結させる実行役」としての役割を担います。

これまでの生成AIは、いわば超高性能な辞書や翻訳機のような道具でした。こちらが問いかければ即座に答えを返してくれますが、これをプロンプト(指示)による対話形式の利用と呼びます。

一方、エージェント型AIを一言で表すなら、自律的に動く優秀なデジタル部下です。

例えるなら、これまでのAIはカレーの作り方を教えてくれるシェフでした。手順は完璧に教えてくれますが、実際にスーパーへ買い物に行き、野菜を切り、火加減を調節するのは人間の仕事です。

これに対し、エージェント型AIは「カレーを作っておいて」というゴールだけを与えれば、自ら冷蔵庫の中身を確認し、足りないものをネットスーパーで注文し、完成させて食卓に並べるまでの工程を自分で考えて実行します。

エージェント型AIには、指示されたことに対して次に何をすべきかを自分で考える「自律性」があります。また、自分でブラウザを開いて検索したり、Excelを操作したり、社内システムにログインしたりといった「行動」が伴う点も大きな特徴です。

それだけでなく、やってみてうまくいかなかった場合に、人間が指示しなくても軌道修正を行う自己修正能力も備わっているのです。

業務はどう変わる?エージェント型AIによる5つの自動化シーンと具体例

業務はどう変わる?エージェント型AIによる5つの自動化シーンと具体例

従来の生成AIによる業務支援は、人間による情報の受け渡しという「仲介作業」を必要としていました。しかし、エージェント型AIの導入により、この仲介作業そのものが自動化され、業務フロー全体のリードタイムが劇的に短縮されます。

具体的にどのような変化が起きるのか、5つのシーンで考えてみましょう。

【製造・卸売】在庫不足をAIが予測し、発注書作成まで自動完結

従来の生成AIでは、担当者が在庫データをAIに貼り付け、不足しそうなものを予測させるまでが限界でした。その後、担当者が仕入れ先へ連絡するなどの作業が必要でした。

この点、エージェント型AIであれば、毎日深夜に在庫システムをチェックし、製造計画から不足分を自ら判断可能です。過去の取引データから最適な仕入れ先へ見積もりを自動依頼し、発注書を承認待ちの状態で作成するまでを完結させます。

【不動産・サービス】問い合わせから内見予約の提案までをAIが即時対応

これまでは、問い合わせメールに対してAIが返信文案を作成し、人間が物件URLを貼り付けて送信していました。

これに対して、エージェント型AIは、問い合わせが届いた瞬間に内容を解析します。顧客名簿を確認して希望に合う物件を抽出し、担当者の空き時間と照らし合わせて具体的な内見日時を提案する返信を、人間の確認ボタン一つで送れる状態に整えます。

【営業・マーケ】ターゲット企業の最新情報をAIが自律巡回・リスト化

従来のAIでは、ターゲット企業のWEBサイトを1社ずつ調べさせていました。しかし、エージェント型AIを使用すれば、特定のリスト50社について、最近のプレスリリースや決算情報を自律的に巡回調査させることが可能です。

得られた情報を整理し、営業管理システム(SCRM)へ自動入力するまでを代行します。

【採用・人事】応募者のスクリーニングから面接日程の調整までAIが代行

応募があった際、これまでは履歴書をAIに読み込ませて要約させていました。エージェント型AIは、応募内容を自社の採用基準と照らし合わせ、一次審査の合否を判断します。

通過者には自動で面接候補日のリンクを送り、予約が完了すれば面接官のカレンダーへ会議設定と履歴書要約の貼り付けまで行います。

【事務・官公庁】書類の矛盾や不備をAIが精査し、修正案まで自動作成

例えば、「補助金申請に必要な書類は何か」という質問に答えるのが従来のAIでした。しかし、エージェント型AIであれば、提出された登記簿や決算書など複数のPDFをすべて読み込み、数字の矛盾や記入漏れを精査します。

さらには、不備がある場合には具体的な修正案を作成し、申請者へ通知する準備までを自動で進めてくれるのです。

なぜ中小企業に「自律型AI」が必要なのか?人手不足を解消する3つの利点

なぜ中小企業に「自律型AI」が必要なのか?人手不足を解消する3つの利点

限られた人的資源で多様な業務を回さなければならない中小企業こそ、エージェント型AIの恩恵を最大化できます。大規模なシステム刷新を行わずとも、既存の業務プロセスにデジタルな労働力を組み込める点が最大の利点です。

まず、1人何役もの業務をこなす限界を突破できます。中小企業の経営者や社員は、営業から経理まで兼務しているケースが珍しくありません。エージェント型AIは、24時間働く専門知識を持った事務局として機能します。あなたが他の仕事をしている間に、裏側で面倒な調査や手配を終わらせてくれるのです。

次に、システム間の壁を人間が繋ぐ必要がなくなります。異なるソフト間でデータを転記する作業は、多くの現場で負担となっているでしょう。その点、エージェント型AIは、システム同士が直接繋がっていない古いソフトであっても、人間と同じように画面を認識して操作する能力を持ち始めています。バラバラのシステムを繋ぐ接着剤の役割を、AIが担ってくれるのです。

さらに、属人化の解消にも寄与します。ベテラン社員の頭の中にある判断基準をAIに学習させ、エージェントとして動かすことができれば、特定の担当者が不在でも業務が止まらず、一定のクオリティを維持して仕事が回る体制を構築できます。

帯邉 昇

執筆者

株式会社MU 営業部

帯邉 昇

新卒で日本アイ・ビー・エム株式会社入社。ソフトウェア事業部でLotus Notesや運用管理製品Tivoliなどの製品担当営業として活動。その後インフォテリア株式会社、マイクロソフト株式会社で要職を歴任した。キャリア30年のほとんどを事業立ち上げ期のパートナーセールスとして過ごし、専門はグループウェアやUC、MA、SFA、BIなどの情報系で、いわゆるDXの分野を得意とする。(所属元)株式会社エイ・シームジャパン。