受領書が戻るまで請求できない|配達完了を請求につなぐ物流DXの始め方

公開日 : 

share :

荷物の配達はとっくに終わっているのに、運送会社は月末の請求書が出せない。理由は「受領書がまだ戻っていないから」。そんなときの営業所では、次のような作業が続いています。

  • 電話で催促する
  • 受領書の束から該当の1枚を探す
  • 見つけた受領書を配車表(どの車にどの荷物を割り当てたかの表)や請求明細と見比べ、請求してよいかを確かめる

受領書を電子化しても、この確認作業が残っていることは少なくありません。つまり、作業が減らない原因は、受領書が紙か電子かではなく、配達完了・受領・請求のデータが別々に管理されていることにあるのです。

物流DX(デジタルトランスフォーメーション)の第一歩は、受領書の電子化より先に、この3つのデータを同じ番号でつなぐことです。国土交通省が中小物流事業者で行ったデジタル化の実証は、受領から請求までを同じ流れで扱う例を示しました。

本記事では、物流DXの始め方として、運送依頼番号(運送の依頼1件ごとに付ける番号)で配達完了・受領・請求をつなぎ、請求に進めてよいかを4つの状態で判定する整理を、1荷主・1営業所から始められる形で解説します。

【本記事の要点】

  • 受領書を電子化しても請求が速くならない原因は、配達完了・受領・請求のデータが別々に管理されている点にある
  • 運送依頼番号を共通の目印にするには、『物流情報標準メッセージレイアウト』で任意項目の請求明細にも同じ番号を持たせる社内ルールが必要になる
  • 請求候補・差異確認中・検収待ち・請求可の4つの状態で請求の可否を判定すれば、数量差・破損・受領拒否を請求へ流さずに済む
  • 荷主が紙のままでも、番号付きスキャンと照合表を使って1荷主・1営業所から試せる

受領書を電子化しても請求が速くならない理由

配達完了・受領書・請求明細が別々に管理され、照合作業が残る様子

この章では、受領書を電子化しても請求が速くならない理由と、国土交通省の実証が示した受領から請求までの流れを整理します。

受領書を電子化しても残る照合作業

配達完了は運行実績(いつ、どの運行で運んだかの記録)、受領書は営業所の書類、請求は経理の請求明細と、別々に管理されている会社は多いのではないでしょうか。この状態で受領書だけを電子化しても、請求担当は「この受領書はどの運行のものか」「どの請求明細に当たるのか」を探す作業から始めることになります。

電子化で変わるのは受領書の置き場所です。受領書の1枚と運行、請求明細を結ぶキー(データどうしを結びつける共通の番号)がなければ、請求担当が1件ずつ見比べて探す作業は、電子化の前と変わりません。

では、貴社ではどこで請求が止まっているのでしょうか。それを確かめるために、直近5件について、運送完了の日、受領書が営業所へ戻った日、請求書を出した日を一覧として並べてみましょう。一覧表は、次のような表をサンプルとして利用してください。

件運送依頼番号運送完了日受領書が戻った日請求書を出した日止まっていた場所
1件目
2件目
3件目
4件目
5件目

5件それぞれについて、運送完了日から受領書が戻った日までの日数と、受領書が戻った日から請求書を出した日までの日数を数え、長いほうを「止まっていた場所」の欄に書きます。前者が長ければ、止まっているのは受領書の回収です。後者が長ければ、止まっているのは照合です。

デジタル化の効果が出る場所は、この2つで異なります。

国土交通省の実証が示した、受領から請求までの一連の流れ

国土交通省は、令和5年度の実証として、中小物流事業者のテック物流(社員125名、主要貨物は鉄鋼)と、荷主のサステック(社員347名、同じく鉄鋼)が受発注から請求までをデジタル化する取り組みを、『中小物流事業者における物流業務のデジタル化実証』(2024年3月)にまとめました。

実証では、配送完了後に着荷主(荷物を受け取る側の荷主)から電子サインを受け、受領書のPDFを発荷主(荷物を出す側の荷主)と社内の関係者へ自動で共有しています。その後、請求金額の確認依頼、請求内容の確定、請求書の生成と荷主への共有を、同じツール上で行いました。

実証の報告書が示した受領と請求に関わる結果は、次のとおりです。

項目報告書の記載条件
受領書の共有2〜3日程度から即時へ物流事業者へのヒアリング結果
請求の工程月69.0時間の削減1営業所当たり。請求書作成約460件/月を基礎に、1工程の実証結果から月単位に概算した値

この削減時間は実証の条件で概算した値です。読み取りたいのは、受領した情報を、請求金額の確認や請求書の生成まで同じ流れの中で使っている点です。

なお、実証では次の課題も記録されています。

  • ツール間の連携が不十分で、手作業やシステム間のタイムラグが生じたこと
  • 荷主側の業務を変える必要があること
  • 一部の荷主だけに導入すると、業務パターンが増えて逆に非効率になる可能性があること

出典・参照:

運送依頼番号でつなぐ、受領・完了・請求の最小データ

運送依頼番号を共通キーとして配車表・受領データ・請求明細を結ぶ関係

この章では、受領書と請求をつなぐために、どのデータへ運送依頼番号を持たせればよいかを整理します。

『物流情報標準メッセージレイアウト』における運送依頼番号の位置づけ

『物流情報標準メッセージレイアウト』は、荷主と運送事業者がやり取りするデータについて、データの種類ごとに記録する項目を定めた文書です。国土交通省は2025年2月7日に、『物流情報標準メッセージレイアウト』をVer.3.00へ改訂したと発表しました。

このうち、本記事に関わるデータの種類は3つあります。荷物を受け取ったことを記録する「受領情報」、運送が終わったことを報告する「運送完了報告情報」、運賃の請求内容を明細ごとに書く「運賃請求情報(明細型)」です。

『物流情報標準メッセージレイアウト』では、受領情報と運送完了報告情報で、運送依頼番号が必須の項目、つまり必ず記録する項目になっており、データを他のデータと結びつけるキーでもあります。一方、運賃請求情報(明細型)で必須のキーとなるのは請求書番号で、明細ごとの運送依頼番号は、記録しなくてもよい任意の項目です。

データの種類運送依頼番号の扱い
受領情報必須・キー項目
運送完了報告情報必須・キー項目
運賃請求情報(明細型)任意項目(請求書番号が必須・キー項目)

受領情報には、荷届先の検収(荷物の内容を確認して受け入れること)に関する区分コードと検収日があります。運送完了報告情報には、運送が正常に終わったか異常があったかの区分コードと、到着時刻、運送完了日・時刻があります。これらはいずれも任意の項目ですが、請求に進めてよいかを判定する材料になります。

つまり、受領と完了は運送依頼番号で結べても、請求側は、番号を持たせる取り決めがなければつながりません。『物流情報標準メッセージレイアウト』に沿ってデータを持つことと、請求までつながることは別の話なのです。

出典・参照:

請求明細にも運送依頼番号を持たせる社内ルール

請求側へ番号を持たせる方法として、本記事では社内ルールを提案します。そのルールは、請求書の明細1行ごとに運送依頼番号の入力欄を設け、空欄のままでは請求書を確定しない形に落とすことです。

このルールの出発点は、配車表や運行実績にある運送依頼番号を、受領書と請求明細にも持たせることにあります。そうすれば、請求担当は番号で運行実績と受領データを引き、探す作業を減らせるでしょう。

ただし、運送依頼番号1つでは、受領書や請求明細の1行がどの荷物の分なのかを特定できない場面もあります。次のような取引です。

  • 分納(1件の荷物を数回に分けて届けること)
  • 積合せ(複数の荷物を1台に載せて運ぶこと)
  • 再配達
  • 訂正

こうした取引では、送り状番号(荷物に添える伝票の番号)や明細番号(請求明細の行の番号)を補助のキーとして足すのが基本です。荷主ごとに番号の付け方が違う場合は、荷主の番号と自社の運送依頼番号を並べた対応表を持ちます。

データ項目持たせる場所役割
運送依頼番号配車表・運行実績・受領データ・請求明細共通のキー
送り状番号・明細番号受領データ・請求明細分納・積合せ・再配達・訂正で、どの荷物の分かを特定する
運送完了日・時刻、正常・異常の区分運行実績請求候補にする条件
検収の要否・検収日受領データ検収待ちの判定

請求に進めてよいか決める4つの状態と保留の扱い

請求候補から差異確認中・検収待ちを経て請求可へ進む判定の流れ

この章では、運送依頼番号でつないだデータをもとに、請求へ進めてよいかを判定する4つの状態と、止める案件の扱いを示します。

請求候補・差異確認中・検収待ち・請求可の判定表

4つの状態は、配達完了のデータと受領データを突き合わせた結果として決めます。判定表は次のとおりです。

状態判定の条件次の動き
請求候補運送完了が登録され、受領データを運送依頼番号で探している受領データの到着と内容を照合する
差異確認中受領データに数量差・破損・受領拒否の記録がある保留理由・担当・期限を記録し、荷主へ確認する
検収待ち受領は済み、荷主の検収が請求の条件で、検収日が未入力検収日が入るまで待ち、期限で荷主へ連絡する
請求可運送完了と受領が揃い、差異がなく、検収が必要な取引では検収済み請求明細へ運送依頼番号を入れて請求書を作る

運用では、案件の一覧に「状態」欄を設け、4つの選択肢から登録する形にします。一覧を状態で絞り込めば、請求担当は「請求可」だけを請求書の作成へ回せ、請求の遅れも「差異確認中」「検収待ち」で止まっている案件として見えるようになります。状態が変わったときに担当者へ通知を出す設定なら、電話での催促も減らせるでしょう。

数量差・破損・受領拒否を請求に流さない保留の決め方

数量差、破損、受領拒否は、受領書が戻っていても請求へ進めない案件です。これらを備考欄に書くだけにすると、請求担当が気づかないまま請求に流れます。

保留にするときは、次の3つを必ず記録しておきましょう。

  • 保留の理由(数量差・破損・受領拒否のどれか)
  • 解消を担当する人
  • 解消の期限

期限が来たら状態の一覧に上がる設計が前提です。解消すれば「請求可」へ進め、請求金額が変わる場合は訂正の履歴を残します。請求の可否は荷主との契約条件に従うため、一部だけを先に請求できるかは取引先ごとに決めておくのが安全です。

ここまでの状態は、運送依頼番号があって初めて案件ごとに追えます。番号が請求明細まで届いていれば、保留中の案件が請求書に混ざっていないかも、番号で確かめられます。

紙が残る取引先でも始められる小さな照合表

紙の受領書をスキャンして小さな照合表へ記録する試行の流れ

この章では、荷主が紙の受領書のままでも始められる照合表の作り方と、電子の受領書で気をつける法律と個人情報の点を整理します。

1荷主・1営業所で試す進め方

国土交通省の実証が記録したとおり、一部の荷主だけにデジタルの運用を導入すると、業務パターンが増えます。そこで、期間と測る数字を決めて、1荷主・1営業所で試し、結果を見て広げるかどうかを決めます。

手順やること使うもの
1対象にする荷主と営業所を1つ決める配車表・運行実績
2受領書に運送依頼番号を記入または印字し、スキャンや撮影のファイル名にも番号を入れる複合機やスマートフォン
3案件ごとに状態を記録する照合表を作る表計算ソフト
4番号の記載と、差異があったときの連絡方法を荷主と決める荷主との合意事項
5結果を測る受領書が戻ってから請求書を出すまでの日数・保留件数

照合表の列は、運送依頼番号、運送完了日、受領データの有無、状態、保留理由、担当、期限、請求書を出した日です。紙の受領書でも、番号をつけてスキャンし、表の「受領データの有無」を更新すれば、案件ごとに状態を判定できます。

手順5で測る数字は2つです。受領書が戻ってから請求書を出すまでにかかった日数と、保留件数です。試行の前後で比べることで、続けるかどうかを自社のデータで判断できるようになるでしょう。

また、荷主が複数ある場合は、番号の付け方が違うため、運送依頼番号の章で示した対応表を、荷主ごとに用意することをおすすめします。

電子受領書の法的な注意と個人情報

電子の受領書を扱うとき、法律の面では気をつけなければならないポイントが2つあります。

1点目は、『民法』第486条との違いです。同条の「受取証書」は、代金などの支払いを受けたことを示す領収書です。荷物を受け取ったことを示す配達の受領書とは別のものです。2021年9月1日に施行された第2項は、弁済をする者(支払う側)が電子的な受取証書を請求できると定めていますが、これも領収書についての定めです。配達の受領書の有効性は、この条文だけでは説明できません。

配達完了の証拠として電子サインを使うなら、荷主・運送事業者・荷受人の間で、導入前に次の4点を確かめておきます。

  • 契約や運送約款(運送の契約条件を定めたもの)
  • 受領の権限
  • 署名の方法
  • 時刻や場所の記録

2点目は、『電子帳簿保存法』です。国税庁は、注文書や送り状、領収書などに通常記載される取引情報を電子的にやり取りした場合、電子取引データ(電子でやり取りした取引情報)として保存するよう示しています。

ただし、電子の受領書がこの保存の対象になる書類に当たるかどうかは、書類の性質ごとに異なります。そのため、保存の扱いは税理士や所轄の税務署に個別に確認します。

あわせて、署名者の氏名、配送先、位置、写真、時刻、電話番号を扱う場合は、個人情報の管理も欠かせません。利用の目的、閲覧できる人、保存する期間、クラウドを使う場合の委託先を、運用の開始前に決めておくと安心です。

出典・参照:

まとめ:電子化の前に、運送依頼番号と4つの状態で請求への道筋を決める

請求が遅れる原因は、受領書が紙か電子かではなく、配達完了・受領・請求のデータが別々に管理されていることでした。そこで、運送依頼番号を、配達完了・受領・請求の3つのデータに共通のキーとして持たせます。請求明細にも同じ番号を入れれば、電子化だけでは残る照合の作業を、番号で探せる形に変えられるようになります。

そのうえで、請求候補・差異確認中・検収待ち・請求可の4つの状態を使い、請求担当が案件ごとに、請求へ進めてよいかを判定します。数量差・破損・受領拒否のある案件は、保留の理由・担当・期限を記録して、請求を止めます。受領書を電子化するかどうかは、この整理ができてから選んでも遅くありません。

最初の一歩として、ご自身の会社の直近5件について、運送完了日、受領書が戻った日、請求書を出した日を並べてみてはいかがでしょうか。受領書の回収と照合のどちらで請求が止まっているかが分かれば、どこから手を付けるかを決められます。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。