ITはなぜ「集中と分散」を繰り返すのか?オープン化が生んだDX時代の経営判断

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未来を見据えた3段階のDX推進ステップ

未来を見据えた3段階のDX推進ステップ

今後の5年間を見据え、中小企業が着手すべきアクションを3つのフェーズに集約しました。

  1. 現状把握(0~3ヶ月)
  2. 方針・ルール策定(3~6ヶ月)
  3. パイロット運用(6~12ヶ月)

という流れで、着実にサイクルを回します。

ステップ1:現状の棚卸しと「ブラックボックス」の可視化(0~3ヶ月)

最初に行うべきは、自社のシステム地図を作ることです。多くの企業では、担当者しか仕様を知らない「ブラックボックス」化したシステムや、Excelマクロが散在しています。 「どのデータがどこにあるか」「そのシステムは外部と連携可能か」「保守期限はいつか」をリストアップし、現状(As-Is)を正確に把握します。これがなければ、どの部分をクラウドへ逃がし、どのデータを社内に残すかの判断ができません。

ステップ2:システム設計とルールの策定(3~6ヶ月)

現状が見えたら、ここからの3ヶ月で具体的な設計方針とルール(To-Be)を決定します。この期間に定めるべきは、主に以下の3点です。

1.「両利き」の設計方針を固める

クラウドかオンプレミス(自社運用)かという二元論ではなく、両者を連携させる「ハイブリッドな構成」を基本方針として据えます。変化の激しい営業支援などはSaaS、守るべきコアデータ管理は自社環境といった「使い分け」の青写真をここで描きます。

2.セキュリティ・ポリシーの策定(経営判断)

システム選定と並行して、「誰が、どのデータに、どこからアクセスして良いか」という権限管理のルールを策定します。クラウド利用を前提とする以上、従来の境界防御ではなく、「ID(本人確認)」をベースにアクセスを制御するゼロトラストの考え方を、社内ルールとして定着させます。

3.API連携を選定基準として明文化する

今後新しいツールやSaaSを導入する際の「調達ルール」も明文化します。具体的には、「APIで他社のサービスと容易につながるか」を必須条件とします。「つながる力」を持つツールを選ぶよう基準を変えることで、将来的なデータの孤立(サイロ化)を未然に防ぎます。

ステップ3:小さく試して「勝ち筋」を横展開する(6~12ヶ月)

ルールと方針が固まった後半の半年で、実際の運用に入ります。全社一斉導入のような「ビッグバン」方式は避け、まずは特定の部署や業務(例:営業日報や経費精算など)に絞って、データ連携のパイロット運用を行います。

「データは社内、処理はクラウド」という構成が、現場の業務負荷を下げつつ安全であることを実証し、その成功体験を基に、翌年度以降の適用範囲を広げていきます。

まとめ:揺り戻しに強い経営体質へ

ITのトレンドは移ろいやすいものですが、「集中と分散」のサイクルには一定の法則があります。次は、AI処理が端末側で行われる「エッジコンピューティング」による分散の波が大きくなるでしょう。

重要なのは、波に翻弄されることではありません。どのような揺り戻しが来ても対応できるよう、システムを疎結合(独立性を保ちつつ連携すること)にしておくことです。オープン化の恩恵を最大限に活用し、自社のデータを守りながら、外部の力を柔軟に取り入れる。そのしなやかな姿勢こそが、DX時代を勝ち抜く中小企業の武器となるでしょう。

帯邉 昇

執筆者

株式会社MU 営業部

帯邉 昇

新卒で日本アイ・ビー・エム株式会社入社。ソフトウェア事業部でLotus Notesや運用管理製品Tivoliなどの製品担当営業として活動。その後インフォテリア株式会社、マイクロソフト株式会社で要職を歴任した。キャリア30年のほとんどを事業立ち上げ期のパートナーセールスとして過ごし、専門はグループウェアやUC、MA、SFA、BIなどの情報系で、いわゆるDXの分野を得意とする。(所属元)株式会社エイ・シームジャパン。