- share :
募集をかけても応募が来ない。来ても、すぐに辞めてしまう。オフィスビルや商業施設の清掃・設備管理・警備を受託する会社の経営者や現場責任者から、こうした声をよく聞きます。
人が足りないなら、今いる人数でどう現場を回すか。ビルメンテナンス業のDXには様々な切り口がありますが、この記事で取り上げるのは、日々の点検・清掃記録を「どこに人を割くべきか」を判断する材料に変え、清掃・警備ロボットを組み合わせて、限られた人数でも品質を保てる体制をつくるという方法です。
この記事では、その具体的な方法と、記録とロボットの両方を活用して人手不足を乗り越えている企業の事例を整理します。
【本記事の要点】
- ビルメンテナンス業は人手不足と単価の頭打ちに挟まれ、限られた人数で現場を回さざるを得なくなっている
- 点検・清掃記録は、作業の証明にとどまらず、どこに人を割くべきかを判断する材料になる
- 清掃・警備ロボットは、記録から見えた優先順位に沿って人手を補う手段として使える
- 記録とロボットの両輪で、少ない人数でも品質を保てる体制をつくることが、人手不足時代のビルメンテナンス業のDXの鍵になる
ビルメンテナンス業界の人手不足と単価の頭打ち
まず、ビルメンテナンス業が置かれている状況を整理しましょう。ここを押さえると、なぜ記録とロボットの活用がビルメンテナンス業のDXの中心になるのかが見えてきます。
清掃や設備管理の担い手は集めにくく、清掃従事者の有効求人倍率は全職種の平均を上回る水準が続いています。
「人件費や光熱費は上がり、コストは膨らむばかりだ」
「それでも、契約更新や入札では価格を下げられ、オーナーへの料金交渉が難しくなっている」
最近では、こんな悩みを抱えている事業者は少なくありません。さらに、現場の担当者からは「これ以上人を減らせない」と言われ、経営判断としては「これ以上単価は下げられない」。この板挟み状態が、DX(デジタルトランスフォーメーション)を考える出発点です。
ここで問い直したいのは、人が足りないなかで、どうやって今の品質を保つかという点です。闇雲に人を増やそうとしても、募集をかけて簡単に集まる状況ではありません。今いる人数を、どこにどう配分するかを考える必要があるのです。
出典・参照:
記録を、限られた人数の判断材料に変える
少ない人数で現場を回すには、どこに手をかけ、どこは力を抜いてよいかを見極める必要があります。ここで役立つのが、現場でつけている点検・清掃記録です。
多くの現場で記録されている情報から、次のような判断材料を取り出せます。
- 不具合の発見日時と対応完了日時(対応が遅れがちな施設・エリア)
- 設備が止まっていた時間(重点的に見回るべき設備)
- 清掃を実施した範囲と、その結果の状態(人手をかけている割に効果が薄い箇所)
- 消耗品の交換履歴(見回りの頻度を減らせる箇所)
- 建物のエネルギー使用量(無人でも異常を検知できる仕組みが必要な箇所)
たとえば、特定の施設で不具合対応が慢性的に遅れているなら、そこは人員を厚くするか、巡回頻度を見直す必要があるでしょう。逆に、広い範囲を清掃しているのに大きな変化が見られない箇所は、人手をかけすぎている可能性があり、ロボットに任せる候補になります。
記録は、これまで「やった証明」として使われてきましたが、「どこに人を割くべきか」を判断する材料としても使えるのです。
ただし、先の全項目を一度に整えようとする必要はありません。まず取り組みやすいのは、不具合の「発見から対応完了まで」の日時を必ず両方記録することです。ここが埋まれば、対応が遅れがちな施設・エリアが見えてきます。対応日時や設備の停止時間など、記録に足りていない項目がないか、洗い出してみてください。
記録とロボットで人手不足を補ったビルメンテナンス会社の事例
記録とロボットの両方を、人手不足への対応につなげている例として、株式会社MIYAGOと株式会社ハリマビステムの取り組みを紹介します。
出退勤の記録を、顧客との信頼につなげた株式会社MIYAGO
千葉県を拠点にビル・住居の清掃と警備を手がける株式会社MIYAGOは、従業員の約半数が外国人労働者という体制のなか、出退勤や現場到着の確認をグループLINEに頼っており、確認の実効性が低いという課題を抱えていました。
そこで、同社はGPS位置情報を活用した業務支援アプリ「cyzen」を導入。出退勤や現場到着をリアルタイムで記録できるようにしました。その結果、従業員の働きぶりを顧客に伝えやすくなり、信頼関係の強化につながったといいます。少ない人数・多様な人材構成のなかでも、記録の透明化によって顧客との関係を保っている例といえます。
出典・参照:
清掃・警備ロボットで人手を補う株式会社ハリマビステム
株式会社ハリマビステムは、清掃ロボット「Whiz_i アイリスエディション」を約40台導入し、施設ごとにスケジュールやエリア配置、走行ルートを設計しています。同社が手掛けるある施設では、月126.9時間・面積約77,000平方メートルの清掃をロボットが担うことで、週5日1名分の清掃ポストを削減でき、そのスタッフを他の清掃業務へ振り向けることができました。
また、別の施設でも、作業時間の短縮と、広い範囲のバキューム作業による体力負担の軽減につながっています。さらに、建物管理クラウドを都内の高級賃貸マンション3物件で導入し、ペーパーレス化と、現地で見つけた不具合情報の即時共有を実現。警備ロボット「ugo Pro」も、大型オフィスビルや大学施設で、常駐の警備員と協働する形で試験導入されています。
出典・参照:
両者の事例で注目したいのは、記録の透明化とロボットの活用が、どちらも「人を減らす」ためではなく、「少ない人数でも品質と信頼を保てる形にする」ために使われている点です。
性能発注時代への備え
最後に、記録とロボットの活用がいっそう重要になる背景を2つ挙げます。それは、制度と発注方式の変化です。
1つは、発注方式の動きです。ビルメンテナンスの契約の多くは、これまで「何人を、週に何回、どの範囲に配置する」という作業量を条件にする仕様発注という形が主流でした。これに対し、「どの状態を、どの水準で保つか」を条件にして発注する、性能発注と呼ばれる考え方が広がりつつあります。
人手を増やさずに成果を示すことは、多くの会社にとってまだ簡単ではありません。だからこそ、ここまで見てきた記録とロボットの活用が力を発揮します。この形で成果を数字にして示せる会社ほど、性能発注のもとでは有利になります。
もう1つは、エネルギー管理です。2023年4月に施行された改正省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)により、エネルギーを使う側の企業にも、使用の合理化と非化石エネルギーへの転換が求められるようになりました。
建物のエネルギー使用量を、少ない人数でも把握し、効率的に運用できる体制をつくっておくことは、ビルメンテナンス会社にとって新しい強みになります。
出典・参照:
まとめ:足りない人手を、記録とロボットで埋める
ビルメンテナンス業の人手不足は、簡単に解消できるものではありません。人を増やすのではなく、限られた人数をどこに配分するかを記録から見極め、足りない部分をロボットで補う。これも、ビルメンテナンス業が目指すDXの形の1つです。さらに言えば、記録とロボットは、どちらか一方ではなく、両輪で使って初めて効果を発揮します。
記録だけでは、どこに手をかけるべきかが分かっても、実際に人を動かす余力がなければ絵に描いた餅で終わります。ロボットだけを増やしても、どこに投入すべきかの判断がなければ、宝の持ち腐れになりかねません。記録で狙いを定め、ロボットで実行する。この組み合わせがあって初めて、限られた人数を最大限に活かるのです。
まずは、直近1カ月の1物件の点検・清掃記録を取り出し、対応が遅れがちな箇所と、人手をかけている割に変化が乏しい箇所を1つずつ見つけてみてください。前者は人員を厚くする候補、後者はロボットに任せる候補です。その仕分けが、足りない人手を埋める最初の一歩になります。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。



