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「1冊売れた本をすぐ発注し直したのに、いつまでも届かない」
「待ちきれずに別の取次や出版社にも同じ本を頼んだら、数週間後に両方からまとめて届いて、棚に収まりきらない」
そんな経験がある書店の経営者・店長は少なくないのではないでしょうか。
欠品を恐れて多めに発注すれば、今度は返品が増えます。委託扱いの仕入れであれば返品自体はできますが、箱詰めや搬出、物流にも手間と費用がかかり、書店経営には負担そのものです。
「発注した」という記録だけでは、実際に何冊届くのか、いつ届くのかが分からないまま、経営者は日々の補充判断を迫られています。
本記事では、発注した本が届くまでの進み具合を、取次・出版社の返事の中身で分けて記録し、重複発注と返品を減らす方法を解説します。あわせて、欠品や重複発注の多い棚を1〜2ジャンルだけ選び、4週間運用して効果を確かめる進め方も紹介します。
【本記事の要点】
- 発注から入荷までの間は取次・出版社の返事が確定せず、その間の本の行方が店から見えなくなるため、「発注した本が来ない」ことが起きる
- 返品できる委託販売でも、返品の作業と物流費は残るため、多めの発注は書店の負担になる
- 発注した本を、返事の中身(返事待ち・出荷が決まった・減数/保留・届いた)で分けて記録すれば、重複発注を防ぎ、あと何冊頼むかを判断できる
- 欠品や重複発注の多い棚を1〜2ジャンルだけ選び、4週間試して、効果を数値で比べてから広げる
発注した本が来ない理由:返事を待つ間、本の行方が見えなくなる
まずは、発注してから本が届くまでの間に何が起きているのかを、国の研究会の指摘と現場の資料から解説します。
発注すると、取次や出版社から「何冊出荷できるか」という返事(回答)が返ってきます。ところがこの返事は、発注してすぐに確定するとは限りません。人気マンガの新刊のように注文が集まる本では、希望した数より少ない数しか出荷されない「減数入荷」になったり、出荷できるかどうかが決まらないまま、回答が保留になったりすることは少なくありません。
経済産業省の『出版産業における返品削減研究会』が2026年4月に公表した取りまとめでは、出版流通の現場で「データが不足・散在・低精度・低鮮度」であることと、「欲しい本が欲しいときに来ない」から「来ないから多めに発注する」という負の循環が起きていることを指摘されました。
同研究会に提出された大垣書店の資料も、人気商品の減数入荷や保留期間の不透明さから、確実に入荷する確証が持てず、追加で発注してしまう現場の実情を伝えています。
返事が確定しないまま時間がたつと、次のような流れになりがちです。
- 取次に発注したが、回答が来ない
- 届くかどうか分からないまま、来店客から問い合わせが入る
- 待ちきれず、出版社にも同じ本を発注する
- 数週間後、取次からも出版社からも同じ本が届き、棚に収まりきらない
この状態が、重複発注です。
この問題の根っこにあるのは、「発注した」「出荷が決まった」「届いた」が、書店の中で同じ「注文中」という1つの状態にまとめられていることです。返事を待っているだけの本と、届くことが決まっている本が区別できないため、判断を誤まってしまうと言い換える事もできるでしょう。
出典・参照:
多めに頼むほど苦しくなる理由:返品しても残る負担
出版流通には、新刊について、定められた期間内であれば売れ残った本を返品できる「委託販売」の制度があります。期限は、新刊委託では締切日から105日が標準です。売れ残っても返品できるから、と多めに発注する背景には、この制度があります。
ただし、返品は書店にとって、負担のない巻き戻しではありません。棚から本を抜き取り、箱詰めして宛名を貼り、搬出するという作業が必要です。経済産業省のとりまとめも、返品にかかるコストとして、書店の返品作業や輸送、返品の管理・処理にかかるコストを挙げています。
書店の本の利益は、定価の22%前後が一般的とされています。1冊あたりの利益が小さいため、返品の作業と物流の負担は軽くありません。それでも、取次ルートの紙の書籍の返品率は、2025年通年で31.9%でした。
とはいえ、すべての本が返品できるわけでもありません。新刊委託のほかに長期委託や常備寄託があり、期限はそれぞれ異なります。注文品と買切品は、原則として返品できません。出版社との直取引も、買切で返品できない条件もあれば、返品できる条件もあり、一様ではないのです。
同じISBN(本のバーコードに付いている識別番号)でも取引形態によって返品の可否が違うため、「返品できる本」と「返品できない本」を同じ1冊として扱うと、判断を誤りやすくなります。
出典・参照:
返事の中身で分ける:発注した本の4つの状態
この章では、発注した本が届くまでの進み具合を、取次・出版社の返事の中身で4つに分け、本ごとに記録する方法を解説します。
大がかりなシステムや高額なDX(デジタルトランスフォーメーション)投資がなくても、今の発注記録と手元の表を使うだけで、始められます。記録するのは、「何冊発注したか」だけではありません。「その発注がいまどこまで進んでいるか」という進み具合、つまり状態です。
発注した本の状態は、取次・出版社の返事の中身で、次の4つに分けられます。
| No. | 状態 | どんな状態か | 数え方 |
|---|---|---|---|
| 1 | 返事待ち | 発注したが、取次・出版社からの返事がまだ来ていない | 届く本として数えない |
| 2 | 出荷が決まった | 「この冊数を出荷する」という返事があった | 届く本として数える |
| 3 | 減数・保留 | 希望より少ない冊数だけ出荷する、または出荷できるかどうか決まらないという返事があった | 出荷が決まった冊数だけ、届く本として数える |
| 4 | 届いた | 実際に店に届いた | 店にある本として数える |
入手できないという返事があった本は、表から外します。
たとえば、売り切れた人気マンガの新刊を取次に発注した場合を考えます。発注した直後は「返事待ち」です。取次から「希望より少ない冊数なら出荷できる」と返事が来れば「減数・保留」になり、出荷が決まった冊数だけが、届く本として数えられます。店に届けば「届いた」になります。
届く本として数えてよいのは、出荷が決まった冊数だけです。返事待ちの本や、保留の本は、届くかどうか決まっていないので数えません。
決まっていない冊数まで届く本に数えると、実際には届かない本を当てにして、追加の発注を見送ってしまいます。反対に、出荷が決まっている冊数を数え忘れると、すでに届くことが決まっている本を、別の経路へ重ねて発注してしまいます。
表1枚で管理する:本ごとの記録と、あと何冊頼むかの判断
この章では、状態を記録する表の項目とデータの出どころ、そして、あと何冊頼むかを決める計算を解説します。
状態を記録する表の項目
本ごとの進み具合を一覧にした表を、ここでは「状態表」と呼びます。本を見分ける目印には、先ほどのISBNを使います。状態表に持たせる最低限の項目と、そのデータの出どころは、次のとおりです。出どころは店ごとに異なります。すでに持っている記録から、表へ写せるものを選びます。
| 項目 | 持たせる内容 | 主なデータの出どころ |
|---|---|---|
| ISBN | 本ごとに割り当てられた識別番号 | 商品マスタ、本のバーコード |
| 求められた冊数 | 欠品時の問い合わせ・客注・来店客が断念した件数 | 客注の記録、問い合わせの記録 |
| 店にある冊数 | 棚で数えた、店頭の実際の冊数 | 棚卸、店頭の確認 |
| システム上の在庫数 | POS・在庫管理が示す冊数 | POS・在庫管理 |
| 発注先 | 取次・出版社・注文サイト等 | 発注履歴 |
| 発注日 | 発注した日 | 発注履歴 |
| 発注した冊数 | 発注した冊数 | 発注履歴 |
| 状態 | 返事待ち/出荷が決まった/減数・保留/届いたのいずれか | 取次・出版社からの返事(発注画面・メール・電話など)を、担当者が選んで入力 |
| 出荷が決まった冊数 | 出荷が決まった冊数 | 取次・出版社からの返事 |
| 出荷が決まった日 | 出荷が決まった日 | 取次・出版社からの返事 |
| 届いた冊数 | 実際に届いた冊数 | 検品・入荷データ |
| 届いた日 | 実際に届いた日 | 検品・入荷データ |
| 取引形態 | 委託・買切・常備寄託・直取引等 | 仕入条件、納品書 |
| 返品できるか・返品期限 | 返品できるかどうかと、その期限 | 仕入条件、納品書 |
状態は、自由に文字を打ち込む欄にせず、4つから選ぶ形にします。そうすれば、表を状態で絞り込むだけで、「返事待ちのまま止まっている本」や「保留のままの本」の一覧が出せます。取次・出版社への問い合わせも、この一覧を見て行えるのです。
システム上の在庫数と、棚で数えた店にある冊数は、別の項目として持ちます。両者に差が出たら、棚で現物を確かめます。
客注者の氏名・連絡先は、この表には含めません。分析に使うのはISBN・冊数・状態だけとし、客注の連絡先情報は別に管理します。
あと何冊頼むかを決める
状態表がそろえば、追加で発注するかどうかの判断はシンプルになります。見るべきは「発注した冊数」ではなく、次の3つです。
- 求められた冊数(欠品時の問い合わせ・客注・来店客が断念した件数)
- 店にある冊数
- 出荷が決まった冊数(届くと決まっている冊数)
求められた冊数から、店にある冊数と出荷が決まった冊数を引いた冊数が、まだ足りない冊数です。計算は次のとおりです。
求められた冊数
- 店にある冊数
- 出荷が決まった冊数
────────────
= まだ足りない冊数
足りない冊数が残るときだけ、追加で発注します。返事待ちの本は、届くかどうかがまだ決まっていないため、この計算には入れません。減数・保留の本も同じで、引くのは出荷が決まった冊数だけです。
ただし、計算の答えが、そのまま発注する冊数になるわけではありません。定番として置き続ける棚なのか、売れたら入れ替える棚なのか。これまでの販売の速さはどうか。返品の条件や、次に入荷するまでの日数はどうか。こうした事情も踏まえて、最終的に決めます。
この計算は、表の列に計算式を入れておけば自動で出ます。さらに、足りない冊数が1冊以上あるISBNだけを絞り込めば、その日に発注を検討する本の一覧ができあがります。毎日の発注判断が、記憶をたどる作業から、一覧を見て決める作業に変わるのです。
別の経路で頼む前に確認する
返事待ちや保留のままの本を、別の取次や注文サイトへ重ねて頼む前には、必ず状態表でISBNを検索して、すでに発注していないかを確認します。複数の経路を併用する書店ほど重複発注が起きやすいため、この確認は欠かせません。
表では、同じISBNの行が複数あり、状態が「届いた」でないものを探すだけで、重複して発注している本が分かります。表計算ソフトなら、同じISBNが2回以上出てくる行に色がつく設定にしておくと、見落としを防げます。
4週間で試す:欠品や重複発注の多い棚から運用し、効果を確かめる
この章では、導入を小さく始めるための対象の選び方と、4週間で比べる指標を解説します。
全ジャンル・全在庫をいきなり対象にする必要はありません。重複発注や欠品問い合わせが多いと感じる棚を1〜2ジャンルだけ選び、4週間運用します。
変更前後で比較する指標は、次のとおりです。
- 重複発注の件数
- 重複して入荷した件数
- 欠品による問い合わせの件数
- 出荷が決まってから届くまでの日数
- 返品候補になった冊数
比較する指標は、状態表の記録から数えられます。重複発注の件数は同じISBNの重複した行から、出荷が決まってから届くまでの日数は、出荷が決まった日と届いた日の差から出ます。そのため、状態を変えたときは日付も一緒に記録しておきます。
まずは対象ジャンルの発注記録と手元の表だけで運用し、重複発注と見落としがどれだけ減ったかを確認してから、対象ジャンルを広げていくほうが、失敗したときの手戻りも小さく済むのです。
まとめ:発注した本を返事の中身で分け、多めに頼む前に表で確かめる
「発注した本が来ない」という不安は、書店に、多めに発注するという行動を選ばせるものです。しかし、発注から入荷までの間には、取次・出版社の返事が確定しない期間が挟まっています。その間の本の行方が見えないまま多めに頼めば、重複発注が起き、返品の作業と物流費という負担が積み重なるのです。
この記事で紹介したのは、次の3つです。
- 発注した本を、返事待ち、出荷が決まった、減数・保留、届いたの4つに分け、ISBNごとに表へ記録する
- あと何冊頼むかを、求められた冊数から、店にある冊数と出荷が決まった冊数を引いた、足りない冊数で決める
- 状態を選択式にして一覧を絞り込み、止まっている発注や足りない本を、表の上で一目で見つける
大切なのは、「発注した」で記録を終えず、返事の中身で本の行方を見えるようにすることです。そのために、大きなシステムは要りません。今日の発注記録と手元の表があれば、始められるのです。
配本や物流の遅れは、個店の努力だけでは解決できません。それでも、自店で減らせる重複発注と見落としを減らすことは、損失を減らす確かな一歩です。まずは、欠品や重複発注の多い1〜2ジャンルの棚から、4週間、発注した本の状態を記録してみてはいかがでしょうか。
執筆者
DXportal編集長
町田 英伸
自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。




