AI時代の競争力は「業務データの主導権」で決まる|企業の戦略【世界のDX潮流】

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生成AIをCRMや会計、在庫管理などの基幹システムにつなぎたいものの、どこまで許可してよいか判断できず手が止まっている、という声を最近よく耳にします。営業担当が顧客名簿を勝手にAIへ読み込ませないか、退職者や外部委託先が機密データに触れないか、AIが間違った更新をしないか、AI時代の「システム主導権」問題は現代の経営者にとって頭の痛い問題です。

海外へ目を転じると、「AI時代の本当の競争軸」を確保する動きが進んでいます。今回はSalesforce・ServiceNow・SAPという大手3大ベンダーの動向を通じて、貴社が基幹業務にAIを接続する前に決めておくべき判断軸を読み解いていきましょう。読み終えたとき、次に着手すべきデータ棚卸しの手順が見えてくるはずです。

【本記事の要点】

  • AI時代の競争軸は「どのAIモデルが賢いか」ではなく「どの業務データにどの権限で接続するか」に移りつつある
  • Salesforce・ServiceNow・SAPは、自社が押さえる業務データを握ったままAIエージェントの司令塔になろうとしている
  • 中小企業が優先すべきは大規模AI導入ではなく、データアクセス方針・権限・ログ・責任分界の棚卸しである
  • ベンダー主導・現場任せのAI導入は「業務のブラックボックス化」と「ロックイン」を招く危険がある

なぜ今「AI時代のシステム主導権」を考える必要があるのか

なぜ今「AI時代のシステム主導権」を考える必要があるのか

生成AIの利用は、文章作成や社内問い合わせ対応の段階から、顧客データ・契約情報・在庫データといった業務情報へ接続する段階へ移りつつあります。理由は、AIエージェントと呼ばれる仕組みの登場です。これは、指示を受けたAIが自律的にシステムを操作し、データを読み書きしてタスクを完了させる技術を指します。

従来の生成AIが「答える」だけだったのに対し、AIエージェントは「動く」ため、業務データへの接続範囲と権限設計がそのまま経営リスクに直結します。例えば、顧客管理システムに接続したAIが商談履歴を要約し、次のアクションを自動登録する動きが現実になりつつある。これは、一見便利に見える半面、誰の指示でAIがどのデータを書き換えたのか、後から追跡できない状態になれば、内部統制や情報漏えいの問題を抱え込むことになってしまいます。

つまり、AIの賢さを比較する前に、AIをつなぐ相手であるシステム側の権限管理・ログ・責任分界の設計こそが、企業競争力を左右する局面に入ったといえます。この視点を持たないままAI導入を進めると、後戻りが難しい負債を抱えることになります。

Salesforce:CRMを「AIエージェントの司令塔」に据える動き

Salesforceは2025年10月のDreamforce 2025で、Agentforce 360と呼ぶAIエージェント基盤を発表しました。同社が押さえてきた顧客データ(CRMデータ)をAIエージェントが直接扱えるようにする構想で、Voice機能やSlack統合、開発者向けのAgentforce Vibesなどを組み合わせ、CRMを軸にした業務自動化の入り口を広げています。

さらに2025年5月には、データ統合ベンダーInformaticaを約80億ドルで買収する契約を結び、社内外のデータ統合・ガバナンス・メタデータ管理の基盤を強化しました。ここから読み取れるのは、AIモデルそのものよりも「AIに渡すデータをどう整え、どう統制するか」に投資を集中させている姿勢です。

中小企業にとってのポイントは、CRMをAI連携の入口として使う場合、顧客データの品質・重複・アクセス権限の設計が甘いままだと、AIが誤った顧客情報をもとに提案や更新を行うリスクが表面化する点にあります。これを防ぐためには、導入前に、営業担当・管理職・外部委託先が誰のどのレコードを閲覧・編集できるかを整理しておかなければなりません。

出典・参照:

ServiceNow:複数AIエージェントを「統制する側」に立つ動き

ServiceNowは2025年1月、自律的に業務課題を解決する新たなAIエージェント群をNow Platformに搭載する発表を行いました。対象範囲はIT部門のヘルプデスク運用(ITSM)から従業員向け業務、フロントオフィスまで、社内ワークフローの広い領域に及びます。加えて2025年に発表されたMoveworks買収計画(約28.5億ドル)は、社員が日常業務で使うAIアシスタント能力を取り込む狙いを持っています。

もう一つの軸が、Microsoft Copilot/Azure/Microsoft 365との統合強化です。これは、同社が「複数ベンダーのAIエージェントを取りまとめる統制基盤」の側に立とうとしていることを示しています。個々のAIモデルを競わせるのではなく、企業内で走る複数のAIをガバナンス(統制・監査)する場として振る舞う戦略です。

中小企業の実務目線でいえば、AIエージェントを社内で複数動かす場合、誰が承認して動かしたのか、どの操作が実行されたのかの記録(ログ)を残す仕組みが欠かせません。ServiceNowの動きは、ログ・承認・ポリシー管理の仕組みを持つ側が業務主導権を握る構造を象徴しています。

出典・参照:

SAP:基幹業務データを「外に出さない」統合方針

SAPは2025年10月のSAP Connectで、AI・データ・アプリを統合した新たなSAP Business Suite構想を発表しました。Joule Agentsと呼ぶAIエージェント群を、財務・調達・人事・サプライチェーンなどの業務モジュールに直接埋め込み、SAP Business Technology Platform(BTP)を基盤として運用する形へ再定義しています。

戦略の方向性は明確です。ERPが保持する基幹データ(会計、購買、在庫、人事など)をSAP自社のAIレイヤーが扱う設計にし、外部AIサービスがERPデータへ自由にアクセスする経路を絞り込む姿勢が読み取れます。第三者のAIモデルに主導権を渡さず、業務データと業務ロジックを同じベンダーの内側で完結させる考え方です。

中小企業の視点でいえば、ERPや販売管理システムに保持する数字は、経営判断そのものに直結するデータです。したがって、外部AIサービスから直接APIで叩かせる前に、「そのデータは本当に外へ出してよいのか」「ベンダー側のAIで済ませたほうが統制上有利ではないか」を検討する必要があります。SAPの動きは、その判断を経営レベルで求めるサインといえます。

出典・参照:

3社の動きが示す「AI時代の競争軸」

3社の動きが示す「AI時代の競争軸」

3社の戦略を並べると、共通する構造が浮かび上がります。それは「AIモデルの性能」ではなく「業務データへのアクセス権」と「ワークフロー実行権」を握った側が主導権を取る、という構造です。各社のポイントを整理すると次のようになります。

領域代表ベンダーAI戦略の中心
顧客接点・営業活動SalesforceCRMデータをAIエージェントの司令塔に据える
社内業務・従業員体験ServiceNow複数AIをまとめる統制・監査基盤に立つ
基幹業務(財務・調達・人事等)SAPERPデータを外に出さず自社AIレイヤーで扱う

この表からわかるのは、「業務データが集まる場所」=「AI司令塔になれる場所」だという構図です。読者が判断すべきは、自社の中核業務データがどのSaaSに集中しているのか、そしてそのSaaSベンダーのAI戦略に業務が引きずられることを許容できるのか、という点です。

つまり、AI選びの前段階で「どのSaaSを業務中枢に据えるか」「そのベンダーに主導権を渡す範囲はどこまでか」を経営として決める必要があります。この判断を先送りすると、気づかぬうちに業務プロセスがベンダーのAIエージェント前提で組み上がっていきます。

DXportal®編集部

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DXportal®編集部

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