レガシーシステム脱却で利益を最大化。経産省DXレポートが示す経営の鉄則

公開日 : 

share :

2018年、経済産業省が発表した「DXレポート」が警鐘を鳴らした「2025年の崖」。レガシーシステムが抱える問題点が表出するターニングポイントとされた年を超えてなお、多くの日本企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性を認識しながらも、老朽化・複雑化したレガシーシステムからの脱却に苦戦している状況が続いています。

経済産業省が2025年5月に発表したレポート『レガシーシステムモダン化委員会総括レポート(通称『DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて)』では、この問いにデータに基づいた答えを提示し、企業が取るべき具体的な対策を明示しています。

本記事では、このレポートの内容を読み解き、DX推進を阻む真の原因と、中小企業が「2025年の崖」を乗り越えるための実践的なステップを解説します。この解説を通じて、貴社がDXを成功させるための確かな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。

【本記事の要点】

  • 経済産業省の最新知見に基づく「2025年の崖」の深刻度とレガシーシステムが招く経営リスクの再認識
  • スクラッチ開発への固執から脱却し、パッケージ導入やSaaS活用による業務標準化を実現するための判断基準
  • 組織文化の変革を伴うITガバナンスの強化、および情報システム部門の自律性を高めるための戦略的アプローチ

「2025年の崖」が招く経営リスクとは?日本企業の危機的現状

経済産業省が2018年に発表した『DXレポート』は、多くの日本企業が抱えるレガシーシステムの問題が、デジタル競争力の低下を招き、2025年以降に年間最大12兆円の経済損失をもたらす可能性を指摘しました。

この警告は「2025年の崖」として知られるようになり、多くの企業の経営者やIT担当者に衝撃を与えたことは記憶に新しいでしょう。しかし、それから数年が経過した現在も、その状況は改善されているとは言えません。

「2025年の崖」は、2026年を迎えた現在でも日本企業の競争力に大きな影を落としています。経済産業省の最新レポートは、この現状をデータで浮き彫りにし、レガシーシステムが引き起こす具体的な問題を明らかにしました。ここでは、レポートが示す深刻な現状と、レガシーシステムの定義、そしてその保有状況について深く掘り下げていきます。

経産省レポートが警告する、放置すれば年間12兆円を失う深刻な影響

経産省のレポート『DXの現在地とレガシーシステム脱却に向けて』は、レガシーシステムが引き起こす具体的な問題として、新システムへの移行時に発生する深刻な問題や、生成AIなどの最新デジタル技術の導入・連携が円滑に進まないといった課題を挙げています。

また、中長期的には、IT人材の需給ギャップ拡大や国際競争力の低下といった問題にもつながることを改めて強調しています。こうした状況は、今後ますます深刻化していく可能性があり、日本社会全体が抱える重要な問題の一つです。

脱却すべき「レガシーシステム」の定義と保有率の実態

経産省のレポートでは、レガシーシステムを「運用維持保守や機能改良が困難になり、経営・事業戦略上の足枷や高コスト構造の原因となっているシステム」と定義しています。単に古いシステムというだけでなく、ビジネス上の制約となっているシステムを指している点が重要です。

約4,000社を対象とした市場動向調査の結果によると、ユーザー企業の61%がレガシーシステムを保有しており、特に大企業では74%と高い保有率を示しています。このことから、レガシーシステムの問題は特定の企業にとどまらず、日本企業全体に共通する課題であることがわかります。(参考:「2024年度ソフトウェア動向調査」 調査結果データの公開と分析レポートの募集/IPA公式サイト

DX推進を阻む「真の正体」とは?技術以上に根深い5つの要因

レポートでは、レガシーシステムが生まれる背景として、以下のような多岐にわたる要因を挙げています。

  • 技術の老朽化:最新の技術に対応できない古いシステム基盤の存在など
  • システムの肥大化・複雑化:場当たり的なカスタマイズを繰り返した結果、全体像が把握できない状態
  • ブラックボックス化:仕様書が不十分で、開発・保守担当者以外には内容が理解できない状態
  • IT投資不足:経営層がIT投資をコストと見なし、戦略的な投資が進まない状況
  • 古い企業文化:「現行踏襲」を優先し、業務プロセスの変革を拒む風土

これらの要因はそれぞれ独立しているのではなく、複雑に絡み合ってDX推進を阻害しています。特に注目すべきは、システムの技術的な問題だけでなく、経営層の意識や企業の文化といった、非技術的な要因も大きく影響している点です。

経営者が主導すべき「レガシーシステム脱却」3つの鉄則

レポートは、市場動向調査の結果から、レガシーシステムからの脱却、すなわち「モダン化」を推進するための3つの重要ポイントを提示しています。

1. ITガバナンスの強化:IT投資を「コスト」から「戦略」へ変える

モダン化を成功させるためには、まず経営層がレガシーシステムの問題を「自分事」として捉えることが不可欠です。レポートは、中期経営計画に大規模システム導入・刷新を記載している大企業がわずか12%に留まっている現状を指摘しており、情報システム部門が経営戦略と連動したIT投資を検討できていないことが浮き彫りになっています。

CxO(Chief x Officer)の設置等、経営層による能動的な関与は、IT資産の可視化やシステムモダン化の進展を促進することが明らかになっています。経営とITを一体として統治するITガバナンスの強化こそが、DX推進の成否を決定づける要因です。経営とITを一体で考えるITガバナンスの強化が、DX推進の成否を分ける鍵となります。

2. 情報システム部門の変革:保守担当から「経営の伴走者」へ

次に重要なのは、情報システム部門の役割の変化です。これまでの「保守・運用」中心の役割から、IT資産の全体像を把握し、経営層に対して具体的な投資対効果を説明できる「戦略部門」への変革が求められます。

具体的には、システムの可視化と内製化を進めることが有効です。ブラックボックス化したシステムの仕様をドキュメント化し、属人性を排除することで、システム管理・運用の効率化が図れます。また、情報システム部門と事業部門が密に連携し、業務プロセスの課題を共有することで、より効果的なモダン化計画を策定できるでしょう。

3. ベンダーとの関係刷新:「丸投げ」を卒業し価値を共創する

経産省のレポートでは、ユーザー企業とベンダー企業の関係性にも言及しています。従来の「労働量対価型」のビジネスモデルから、ベンダーがユーザー企業の「内製化を支援・伴走する」という「価値提供型」のビジネスモデルへの変革が求められています。

また、ベンダーに全てを任せるのではなく、ユーザー企業が主体性を持ってモダン化に取り組む姿勢が不可欠です。ベンダーは、その取り組みをサポートする強力なパートナーとして協力する関係性を築くことが、DX成功の重要な要素となります。

山田 元樹

執筆者

株式会社MU 代表取締役社長

山田 元樹

社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。