絵文字を世界共通にしたのは、絵ではなかった

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LINEなどのチャットツールで、返事の代わりに👍を送った経験はありませんか?

その場合、相手のスマートフォンがiPhoneでもAndroidでも、👍は文字化けすることなく、👍として届きます。また、日本語の通じない海外の人とのやり取りでも、😂や🙏はとくに説明なく伝わります。この当たり前さを、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

「絵文字は日本発の世界共通語になった」という語られ方をよく見かけます。1999年に日本の携帯電話で生まれた小さな絵文字が、いつの間にか世界中のスマートフォンで通じるようになった、という物語です。

興味深い話ですが、Unicode Consortiumが公開する一次資料を確認すると、実際に世界共通になったものと、いまも各社バラバラのまま残っているものが、はっきり分かれています。

本記事では、絵文字が国や会社の壁を越えて届くようになった経緯を踏まえ、何が共通になり、何が共通にならなかったのかを整理します。

【本記事の要点】

  • 1999年のiモード絵文字は「世界初」と単純に言い切れず、1997年のJ-PHONE端末という先行例も現存資料で再検証されている
  • 2009年にGoogleとAppleが共同でUnicode®標準へ提案したのは、絵柄の統一ではなく、異なる端末間でも同じ文字として送受信できる相互運用性だった
  • 2010年のUnicode標準6.0で日本発608文字が正式に追加され、各社が共通の識別子でやり取りできる基盤が成立した
  • 絵柄と文化的な意味はいまも各ベンダー・各文化に委ねられたままであり、共通になった中心は、文字やシーケンスを同じものとして識別し交換するための符号化の土台である

送った絵文字が「〓」になっていた時代

1997年と1999年の初期絵文字端末を含む独自コードの異なる携帯電話間で、絵文字が欠落記号になる状況を示す図

絵文字の起点としてまず語られるのは、1999年2月22日に始まったNTTドコモの「iモード」です。栗田穣崇氏らが手がけた176種・12×12ドットの絵文字は、限られた画面と通信量の中でも感情や状況を伝えられる工夫として広く普及し、世界的な普及につながる代表的な初期セットとなりました。

ただし、iモードが「世界初」と単純に言い切ることはできません。Emojipediaが端末資料等をもとに再検証したところによると、1997年11月には、現在のSoftBankにつながるJ-PHONEの端末「SkyWalker DP-211SW」に、90種類の絵文字がすでに搭載されていました。どちらが「最初」かを決めつけるより、複数の携帯電話会社がそれぞれ独自に、似た発想の絵文字を生み出していたととらえるほうが実情に近いでしょう。

ここで見落とされがちなのが、当時の絵文字が各社ごとに閉じた文字コードだったという点です。ドコモ、au、J-PHONE(後のソフトバンク)は、それぞれ独自のShift_JISベースの符号化を使っており、異なる会社の端末同士でメールをやり取りすると、絵文字は文字化け(〓)になったり、そもそも表示されず欠落したりしていました。同じ「日本の絵文字」でも、会社の壁を越えると届かない時代が、しばらく続いていたわけです。

しかし、この壁を越えて、各社の絵文字を1つの規格にまとめようとする動きが、やがて始まります。その経緯を、次の章で詳しく見ていきます。

出典・参照:

バラバラだった絵文字は、どうやって1つの規格にまとまったのか

異なる見た目の絵文字を表示する二つの端末が、中央の共通識別子を介してつながる相互運用性の図

各社の絵文字が1つの規格にまとまり、国際的な文字の標準であるUnicode®標準に正式に収録されたのは、2010年のことです。ただし、その動きは2010年に突然始まったわけではありません。2000年4月には、ドコモの絵文字をUnicode®標準へ符号化する初期提案がすでに提出されていました。しかし当時は、絵文字が世界的に普及する見通しや携帯電話会社側の支持が不足しており、話はそこから先へ進みませんでした。

状況が動き出したのは2006年以降です。日本の携帯各社の絵文字を海外でも扱えるようにするため、Googleが独自に、Unicode標準の私用領域を使った変換作業を始めました。2007年にはUnicode Technical Committee(UTC)が絵文字を検討対象に含める方針を承認し、共通の符号化に向けた作業草案がまとめられています。

そして2009年1月30日、GoogleとAppleの担当者が、607種類の記号をUnicode標準およびISO/IEC 10646へ追加する共同提案を提出しました。この提案が目指したのは、絵柄をそろえることではありません。異なる会社・異なる端末であっても、同じ文字として送受信できるようにする「相互運用性」でした。

提案では色やアニメーションといった表現は対象に含めず、企業のロゴも扱いません。提案は同年2月6日にUTCで了承されましたが、これは審議上の重要な通過点であり、この時点ではまだ標準化が完了したわけではありませんでした。

出典・参照:

Unicode®標準6.0が追加した608文字の意味

標準への正式な収録は、2010年10月11日に公開されたUnicode標準6.0で実現しました。日本の携帯電話会社3社に由来する絵文字の集合は合計722文字にのぼりますが、そのうち114文字はすでに2009年10月公開のUnicode標準5.2に含まれていたため、Unicode標準6.0で新たに追加されたのは残る608文字です。

この608文字が加わったことで、ドコモ・au・ソフトバンクという異なる会社が個別に持っていた絵文字が、共通の識別子を持つ「同じ文字」として扱えるようになりました。送信側と受信側が別の会社のシステムであっても、同じ符号位置を指していれば同じ文字として認識できる。これが、閉じたキャリアコードから、相互運用可能なデータへの転換です。

出典・参照:

絵柄と意味は、いまも統一されていない

ここで見落としてはいけないのは、Unicode標準が定めたのは、文字やシーケンスを同じものとして識別し、交換するための符号化の土台であり、表示の完全な一致までを保証するものではないという点です。

実際に画面に表示される絵柄(グリフ)は各ベンダーの実装に委ねられており、Apple、Google、Microsoftなどが、それぞれ別のデザインで絵文字を描いています。つまり、Unicode Consortiumはカラー絵文字のデザイナーでも所有者でもなく、見た目の完全な一致を保証してはいないのです。

1つの絵に見えるものが、必ずしも1つの符号位置とは限らない点も見落とされがちです。国旗や、家族・職業を表す絵文字などは、複数の符号位置やZERO WIDTH JOINER(ZWJ)を組み合わせて、1つの絵として表示する仕組みになっています。対応していない環境では、組み合わせる前の要素が別々に表示されることもあります。

さらに、Unicode Consortium自身が、絵文字は文法や語彙を欠くため言語そのものではなく、意味も文化や言語、文脈によって変わるとFAQで明記しています。そのため、「世界共通語」という呼び方は、届く仕組みの正確さを言い当てたものというより、通称として理解したほうがよさそうです。

規格が公開されても、OSやフォント、キーボードを各ベンダーが対応させて初めて実際の端末で使えるようになる点も、規格と実装が別物であることを示しています。

出典・参照:

標準化は「全部同じにする」ことではない

共通の識別基盤から異なる端末上の絵文字表示へつながり、表示や文脈の解釈は分かれることを示した図

ここまでの経緯を振り返ると、絵文字が世界に通じるようになった理由が見えてきます。それは、絵がどこでも同じ意味に見えるからではなく、送信側と受信側が同じ文字・シーケンスとして識別し、交換できるという符号化の土台を共有したからです。

ただしその土台は、絵柄の完全な一致や、文化を越えた意味の一致までは保証しません。共通にする部分を絞り、表示の細部や文化的な解釈は各社・各文化の側に委ねる設計だったのです。

これは、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める会社のデータ連携にも重なる話です。同じ「取引先」や「商品」、「案件のステータス」といった情報を、部署ごと、Excelごと、導入しているSaaSごとに少しずつ違う名前や番号で管理していると、見た目は似ていても、集計したり、システム間で連携したり、別のツールへ移行したりする場面で食い違いが表面化します。

絵文字の世界化が教えてくれるのは、画面の見せ方をそろえることより先に、同じものを同じID・同じ意味で呼べているかを決めておくことの大切さです。自社のマスターデータやコード表が、部署やツールごとに少しずつ違う呼び方になっていないか、一度見比べてみる価値はありそうです。

まとめ:届くことと、伝わることは別の話

絵文字が国や会社の壁を越えて届くのは、絵柄や気持ちが誰にとっても同じに見えるからではありません。異なる会社・異なる端末の間で、同じ文字・シーケンスとして識別し、交換できるという符号化の土台を共有したからです。そして、その土台が引き受けたのは符号化と交換までであり、絵柄のデザインや文化的な意味づけは、あえて統一せずに残されました。

文字化けせずに届くことと、😂や👍の受け止め方が全員に同じように伝わることは、別の問題です。意味の一致がどこまで保証されるかは、いまも人と人との対話が引き受けている部分だといえます。金額や期限、承認といった仕事上の重要な意思表示を絵文字だけに頼らない、という1つの穏やかな心構えを持っておくとよさそうです。

※本記事に登場する「Unicode®」は、文字の国際標準を策定する非営利団体Unicode, Inc.の登録商標です。商標の権利者を明示するため、公式の表記を以下に記します。

Unicode and the Unicode Logo are registered trademarks of Unicode, Inc. in the United States and other countries.

町田 英伸

執筆者

DXportal編集長

町田 英伸

自営での店舗運営を含め26年間の飲食業界にてマネージャー職を歴任後、Webライターとして独立。現在はIT系を中心に各種メディアで執筆の傍ら、飲食店のDX導入に関してのアドバイザーとしても活動中。『DXportal®』では、編集長としてすべての記事の企画、及び執筆管理を担当。特に店舗型ビジネスのデジタル変革に関しての取り組みを得意とする。「50s.YOKOHAMA」所属。