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「GAFAMの次はどこだ?」第2回。本シリーズで初めて、具体的な企業・組織を「ノミネート」として名指しします。最初に扱う部門は、AI・基盤モデル部門です。
半導体やクラウドが土台だとすれば、そのうえで今もっとも激しい主導権争いが起きているのが、生成AIそのものを作る企業です。検索、SNS、OS、スマートフォンに代わって、次の10年の情報インフラの中心になるのは、AIモデルそのものかもしれません。だからこそ、部門別ノミネートの第1弾はここから始めていきましょう。
【本記事の要点】
- AI・基盤モデル部門は「一番賢いAI」を決める部門ではなく、「AI時代の知能基盤を誰が握るか」を考える部門である
- 米国が依然として中心だが、中国勢の台頭は急速で、単なる「追いかける存在」ではなくなっている
- 本命ノミネートは米国5社・中国2社を軸に検討するが、最強のモデルを作る企業と最終的な覇権企業が一致するとは限らない
- ダークホースとして、モデルを作らない企業(Cursor)や、資本規模で本命に及ばない急成長企業(Moonshot AI/Kimiなど)が勢力図を変える可能性を持つ
AI・基盤モデル部門の現在地:知能基盤を誰が握るのか
この章では、AI・基盤モデル部門で何を見るのか、そして2026年9月時点の世界的な構図を整理します。
この部門で見ているもの
本シリーズがいう「AI・基盤モデル部門」は、単に「一番賢いAIモデル」を決める部門ではありません。見ているのは、AI時代の知能基盤そのものを誰が握るのか、という問いです。
考察の軸として、以下のような要素を参考にしました。ただし、これらを点数化してランキングを作ることはしません。あくまで各社を見るときの視点として使います。
- モデル性能と研究開発力、モデルの更新速度
- マルチモーダル性能、AIエージェント、コーディング能力
- API・開発者エコシステムの厚み
- ユーザー数・利用接点、企業導入の広がり
- 資本力・計算資源・コスト競争力
- グローバル展開力、オープン戦略かクローズド戦略か
- 他サービスへAIを組み込む配布力
米国中心、中国急伸、日本模索という構図
2026年9月時点の世界的な構図を大まかに描くと、米国が現在の中心にあり、その背中を中国勢が急速な速度で追いかけている。そして、日本を含む各国が独自路線のAI基盤を模索している、という三層構造になっています。
米国では、OpenAI・Anthropic・Google DeepMind・Meta・xAI(現SpaceXAI)が、フロンティアモデルの開発競争の中心にいます。いずれも数百億〜数兆円規模の評価額を持ち、巨額の計算資源投資を続けている点は共通していますが、収益化の道筋や組織構造は5社5様です。
中国では、DeepSeek・Alibaba(Qwen)・Moonshot AI(Kimi)などが存在感を強めています。中国勢を「米国モデルを追いかける存在」と単純化するのは適切ではありません。DeepSeekは低コストでの学習効率という切り口で世界の開発思想そのものに影響を与えましたし、Alibabaはオープンウェイトモデルの累計ダウンロード数で米国勢を上回ったと報じられました。
日本では、Preferred Networks系のPLaMoやSakana AIが、日本語性能や国内産業との連携を軸にした独自路線のAI開発を進めています。米中の本命企業と同列の規模で比較する必要はありませんが、日本なりの戦い方を考える材料として、第5章であらためて掘り下げます。
出典・参照:
本命ノミネート発表:覇権候補たちの現在地
ここからは、本命ノミネート企業を1社ずつ見ていきましょう。各社について、正式名称・代表モデル・キーパーソン・現在の立ち位置・最大の強み・弱みとリスク・狙い・覇権候補である理由を整理しました。
米国勢
大本命となるのは、依然として米国勢です。OpenAI・Anthropic・Google DeepMind・Meta・xAI(SpaceXAI)の5社は、いずれも数百億〜数兆円規模の評価額を持ちながら、収益化の道筋や組織構造は5社5様です。まずはこの5社を1社ずつ見ていきます。
OpenAI
正式名称はOpenAI(非営利法人OpenAI, Inc.傘下の営利子会社OpenAI Group PBCなどの複合構造)。本記事執筆時点での代表モデルは、2026年9月に投入を発表したGPT-6 Astraです。代表のサム・アルトマン(Sam Altman)は、このモデルを「新しい能力の段階」と表現し、自身の仕事の進め方まで変えたと述べています。
2022年11月30日にChatGPT(GPT-3.5)を世に送り出し、生成AIブーム(あえてブームと定義すれば)の火付け役となったOpenAIの現在の立ち位置は、消費者向けChatGPTのブランド力と利用者基盤で他社を圧倒している点にあります。
ただし、年換算収益(ARR)は2026年8月時点で約400億ドルに達したと報じられる一方、評価額は約8,520億ドルとされ、営業利益率はマイナス122%という指摘もあり、経営的な不安感は残ります。売上を上回る規模の損失を、計算資源への投資でほぼ使い切っている構図です。
最大の強みは、ChatGPTという圧倒的な消費者接点と、開発者・エンタープライズの双方に広がるAPIエコシステムです。弱みとリスクは、収益を大きく上回る投資規模と、それを支え続けるための資金調達への依存でしょう。
2027年に株式公開を目指すとされていますが、公開企業としての情報開示・株主説明の負荷は、非公開時代とは質が異なるプレッシャーになるのではないでしょうか。
サム・アルトマンが狙っているのは、単なるチャットボット企業ではなく、AIを介したあらゆる仕事・意思決定の「入口」になることだと考えられます。ChatGPTを生活インフラ化しようとする姿勢は、GAFAM各社が検索やSNSを生活インフラ化した経路と重なります。ブランド力と利用者基盤の厚みという点で、OpenAIは依然として本命の筆頭候補です。
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Anthropic
正式名称はAnthropic PBC。代表モデルはClaude Opus 4.6、および2026年6月に投入されたClaude Fable 5です。CEOのダリオ・アモデイ(Dario Amodei)は、AIの安全性に強くこだわる思想を掲げ、2026年1月には約2万字に及ぶエッセイでAIリスクへの警鐘を発信しました。
現在の立ち位置は、エンタープライズ・開発者からの信頼という一点に集約されます。とくにコーディング特化のClaude Codeは、ソフトウェア開発の現場に浸透し、Anthropicの成長を牽引したと報じられています。
資金調達面でも、2026年1月に350億ドルのタームシートが報じられたあと、同年2月には300億ドルを調達し評価額は3,800億ドルに達しました。
最大の強みは、安全性を重視する思想そのものがブランドになり、規制当局や大企業からの信頼を獲得している点です。弱みとリスクは、OpenAIと同様に非公開企業として巨額の資金調達に依存し続けている構造、そしてAmazon・Googleというクラウド大手からの出資・計算資源提供への依存です。
アモデイが公言する「AIの安全な発展」という思想が、そのまま製品の差別化要因になっている一方、思想が先行しすぎれば市場の実利重視の空気とずれるリスクも抱えかねません。
Anthropicが狙っているのは、消費者向けの派手さよりも、企業の基幹業務にAIを組み込む「信頼できるインフラ」としての地位です。開発者・エンタープライズという地味だが定着すれば強固な接点を握りつつある点で、覇権候補としての実力は十分にあります。
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Google DeepMind
正式名称はGoogle DeepMind。代表モデルはGeminiシリーズ(3.7/3.8系Flashなど)です。ここで押さえておくべき最新の変化は、2026年8月5日付でデミス・ハサビス(Demis Hassabis)が最高経営責任者の座を退き、Google DeepMindの会長および親会社Alphabetのチーフサイエンティストへ転じたことです。日常運営の指揮は、これまでCTOを務めていたコライ・カヴクチュオール(Koray Kavukcuoglu、読み要確認)が、Google DeepMind上級副社長として引き継いでいます。
この人事は、モデル投入の遅れや研究者の流出、社内の士気低下がきっかけになったと報じられています。ハサビスは今後、AIの安全性やAGIが社会にもたらす意味といった大局的な論点に軸足を移すとされ、日々のGemini開発の指揮からは一歩引く形になります。
最大の強みは、検索・Android・YouTube・Google Cloudという既存の巨大な生活・業務接点にAIを直接組み込める立場です。弱みとリスクは、組織再編そのものが示す社内の混乱と、OpenAI・Anthropicに対する開発速度面での遅れという評価です。
Googleが狙っているのは、Geminiを単体のチャットサービスではなく、検索やAndroidに溶け込んだ「気付けば使っているAI」にすることだと考えられます。既存接点の広さという一点において、Google DeepMindは本命から外せない存在です。
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Meta(元Facebook)
正式名称はMeta Platforms, Inc.。2026年4月8日、オープンウェイトのLlama 5とクローズドのMuse Spark(Meta Superintelligence Labsが開発した新シリーズの第1弾)を同日投入するという「二正面戦略」を打ち出しました。
CEOのマーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)は、Scale AI創業者のアレクサンダー・ワン(Alexandr Wang)を2026年6月にSuperintelligence Labsの責任者として迎え、ChatGPTの共同創業者であるシェンジャー・ジャオ(Shengjia Zhao、読み要確認)をチーフサイエンティストに据えています。
現在の立ち位置は、Facebook・Instagram・WhatsApp・Messengerという世界最大級のユーザー基盤にAIアシスタントとスマートグラスを組み込む段階にあります。最大の強みも、まさにこのユーザー接点の広さです。
一方で弱みとリスクとして、Superintelligence Labs立ち上げ後もAI人材の流出が続いていると報じられており、140億ドル規模のScale AI投資に見合う成果を株主に説明できるかという課題を抱えています。
ザッカーバーグが狙っているのは、「個人的超知能」、つまり誰もが日常的に使うSNSの延長線上に、その人の生活を理解したAIを置くことです。技術力そのものよりも、すでに世界中の生活に入り込んでいる接点の強さで勝負するという点で、GAFAM時代のMetaの戦い方と地続きです。
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xAI(SpaceXAI)
ここで最新の構造変化を確認しておく必要があります。xAIは2026年2月、イーロン・マスク(Elon Musk)が率いるSpaceXとの統合に合意し、評価額約1兆2,500億ドルという史上最大級の企業結合となりました。さらに同年7月には、xAIという法人格自体が解消され、GrokとX(旧Twitter)を含む形で「SpaceXAI」というSpaceXのAI部門へ一体化しています。マスクは現在、親会社SpaceXのCEOという立場から、この部門全体の実質的な統括者です。
代表モデルはGrok 4.5系で、6兆パラメータ規模とされるGrok 5の投入をマスクが予告していますが、これは発表済み計画であり、2026年9月時点で実際に提供されているモデルではない点に注意が必要です。
現在の立ち位置は、SNS(X)、宇宙インフラ(SpaceX)、そして後述するコーディング環境(Cursor、買収については第4章で詳述)までを1つの資本の下に集約した、他社にない垂直統合構造にあります。
最大の強みは、この垂直統合そのものです。ロケット・衛星通信という物理インフラと、AIモデルと、ユーザーが日常的に開く接点(X)が同一資本の下にある企業は、本命候補のなかでも他に例がありません。
弱みとリスクは、ガバナンスの複雑化と、意思決定がマスク個人の判断に強く依存する構造です。巨大企業の合併が短期間で連続していること自体が、統合リスクとして残ります。
マスクが狙っているのは、AIを単体のチャットサービスとしてではなく、宇宙・通信・移動・情報空間全体を貫く基盤として位置づけることだと考えられます。個別のモデル性能では他社に一歩譲る評価が多いものの、資本と接点の一体化という武器を持つ点で、本命から外すことはできません。
中国勢
米国勢を猛追するのが中国勢です。編集部としては、DeepSeek・Alibaba(Qwen)の2社を本命として扱いますが、いずれも「米国モデルを追いかける存在」という単純な構図には収まりません。コスト効率とオープンウェイト戦略という、米国勢とは異なる武器を持っています。
DeepSeek
正式名称はDeepSeek(杭州深度求索人工智能基础技术研究有限公司)。創業者は梁文鋒(Liang Wenfeng)です。代表モデルは、2026年4月24日に投入されたDeepSeek V4 Pro。1.6兆パラメータのMixture-of-Expertsモデルで、オープンウェイトかつMITライセンスで公開されています。
現在の立ち位置は、2025年初頭の登場時と変わらず、「低コストで高性能なモデルを作れる」という実証そのものです。最大の強みは、限られた計算資源でもフロンティア級の性能を出せる学習効率の高さと、それをオープンウェイトで公開する戦略です。弱みとリスクとしては、米国の半導体輸出規制の下で先端の計算資源を安定的に確保できるかという不確実性が挙げられます。
次期モデルとされるR2についても、性能への不満や学習基盤の切り替えを理由に投入が遅れているとの報道があり、「発表済み計画」と「実際の提供」を混同しないよう注意が必要です。
梁文鋒が狙っているのは、巨額の資本を持たない企業でも学習手法の工夫でフロンティアに到達できることを示し、中国のAI開発全体の底上げに寄与することだと考えられます。低コスト・オープンという戦略そのものが世界のAI開発思想に影響を与えた実績は、覇権候補としての説得力を持ちます。
出典・参照:
Alibaba/Qwen
正式名称はAlibaba Group Holding Limited、AI基盤モデルのブランド名がQwen(通義千問)です。2026年8月には、コスト効率を重視したQwen3.8-FlashとフラッグシップのQwen3.8-Max(2.4兆パラメータ)を相次いで投入しました。Alibabaが公開しているオープンウェイトモデル群は、累計ダウンロード数でMeta・Googleを上回る3億件超に達したと報じられています。
キーパーソンについては「要確認」です。Qwenの技術リーダーだったJunyang Lin氏(中国語表記未確認)が離脱したとされる2026年3月以降、周靖人(Jingren Zhou)がQwen統括を一時的に引き継ぎ、4月にはグループ全体のチーフAIアーキテクトに就任、6月にはAlibabaのチーフサイエンティストへ転じたとされていますが、就任直後に退任したという未確認の報道も複数あり、開発体制のトップが誰かを2026年9月時点で断定することはできません。本記事では、この体制の流動性そのものをリスクとして扱います。
現在の立ち位置は、中国国内最大級のクラウド基盤(Alibaba Cloud)を背景に、オープンウェイトモデルの配布力で世界的な存在感を確立している点にあります。最大の強みは、この配布力と、クローズド版(Qwen3.7-Maxなど)による収益化の両立を試みている戦略の幅広さです。弱みとリスクは、前述の技術トップ人事の混乱に加え、Alibaba本体の巨大な事業ポートフォリオのなかで、AI投資の優先順位がどこまで維持されるかという点です。
Alibabaが狙っているのは、オープンウェイトモデルを世界中の開発者に配ることで事実上の標準ポジションを取り、そのうえでクラウド・エンタープライズ向けに収益化するという二段構えの戦略だと考えられます。ダウンロード数世界最大級という配布力の実績は、体制の不安定さを補って余りある覇権候補としての武器です。
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