DX成功事例に学ぶ:変化を乗り越えた企業たち

前編では「2030年問題」を念頭に、AIや自動化によって業務内容が変化したり、縮小したりしていく可能性のある職種があることをお伝えしました。しかし、だからといって悲観する必要はありません。むしろ、中小企業がDXを推進することで、そうした変化を乗り越え、新たな成長の機会をつかんでいる事例が数多く存在します。
ここでは、中小企業がどのようにDXを活用し、成果を上げているか、具体的な事例を通して見ていきましょう。
経理・事務業務の効率化で人手不足を解消する製造業
「経理、簿記、給与計算事務員」や「原材料の記録、在庫管理事務員」といった職種は、AIやRPAの影響を大きく受けると言われています。これらは裏を返せば、DXによって最も効率化しやすい業務と言えるでしょう。
ある中小製造業では、ベテランの経理担当者の退職を前に、人手不足と業務の属人化に課題を抱えていました。そこで、クラウド会計システムとRPAを導入し、仕訳入力や請求書発行、在庫管理といった定型業務を自動化したのです。
これにより、経理業務にかかる時間を大幅に削減し、残された経理担当者はより高度な資金繰りや経営分析に集中できるようになりました。結果として、新たな経理担当者を採用することなく、業務の継続性と効率化を両立させることができたのです。
AI活用で営業の質を高める専門サービス業
「テレマーケター」や「訪問販売員」といった職種は、AIによる顧客分析や自動応答システムの進化によって、その役割が変化していくと予測されています。これは人間が行う営業活動の価値がなくなる、という意味ではありません。むしろ、AIがこれまでの営業業務を補完することで、より質の高い営業活動が可能になると捉えることもできるでしょう。
あるBtoB専門サービス業の中小企業では、顧客リストの作成やアポイント獲得に多くの時間と労力を費やしていました。そこで、AIを活用した顧客分析ツールを導入。これにより、潜在顧客のニーズをAIが分析し、具体的な課題や関心事を予測できるようになりました。
営業担当者は、AIが作成した顧客一人ひとりに合わせて作成された提案の骨子を参考に、顧客との対話に臨む形になったのです。これにより、画一的なアプローチではなく、顧客一人ひとりの状況に合わせた深いコミュニケーションが可能になり、成約率が大幅に向上しました。
AIがデータ分析や情報収集といった定型的な部分を担うことで、人間は「顧客の感情に寄り添う」「信頼関係を築く」「複雑な交渉をまとめる」といった、より高度な業務に集中できるようになった好例と言えるでしょう。
無人化とデータ活用で顧客体験を向上させる小売業
「小売店のレジ係」は、セルフレジやキャッシュレス決済の普及により、その業務内容が大きく変化すると予測される職種の一つです。これも単に「仕事がなくなる」という話ではありません。むしろ、限られた労働力を有効活用し、顧客により良い体験を提供する機会と捉えられます。
ある地域密着型の食料品小売店では、少子高齢化によるレジ担当者の確保の難しさ、そしてレジ待ちの顧客ストレスという二つの課題に直面していました。そこで、セルフレジとキャッシュレス決済を積極的に導入し、レジ業務の省力化を図ったのです。
これにより、従業員は単純な会計業務から解放され、その分の人手を品出しや売り場づくり、きめ細やかな顧客サポートといった、より付加価値の高い業務に再配置できるようになりました。
さらに、この小売店では、顧客の購買履歴データをAIで分析し、個々の顧客に合わせたおすすめ商品をメールやアプリで提案するパーソナライズドマーケティングも開始。これにより、顧客は「自分にぴったりの商品」に出会える機会が増え、リピーターが増加し、売上向上にも貢献しました。
オンライン化とAIで新たな価値を生み出す士業・専門職
「弁護士秘書」や「法務担当者」、さらには「保険引受人(アンダーライター)」や「旅行代理店」といった定型的な契約書作成や調査業務が多い専門職の一部は、AIによる情報処理や定型業務の自動化によって、その役割が大きく変化していくと考えられます。これは専門職の仕事がなくなることを意味するのではありません。DXに戦略的に取り組む企業にとっては、人間にしかできない高度な判断や創造的な業務に集中できるようになる好機と捉えることができるでしょう。
例えば、ある地域密着型の法律事務所では、日々多くの法律相談が寄せられ、その初期対応や資料作成に膨大な時間と労力を費やしていました。この状況に少子高齢化による将来的な人手不足への懸念が重なり、効率化は喫緊の課題だったのです。そこで、その事務所ではWEBサイトにAIチャットボットを導入し、よくある質問への自動応答や、簡単な法律情報の提供を24時間体制で開始しました。
これにより、弁護士や事務員はこれまで初期対応に割いていた時間を、より複雑な案件の分析、戦略立案、顧客との深い対話といった、専門家として最も価値を発揮できる業務に集中できるようになったのです。
さらに、オンライン法律相談システムを構築することで、事務所に来られない遠隔地の顧客にもサービスを提供できるようになり、地理的な制約を超えた新たな顧客層の開拓にも成功。結果として、限られたリソースの中で、より多くの顧客に高品質なサービスを提供できるようになり、事務所全体の生産性と顧客満足度を大きく向上させました。
これらの事例に共通するのは、テクノロジーを導入すること自体が目的ではなく、AIや自動化によって変化する業務や職種を冷静に見極め、「人がやるべきこと」と「AIやシステムがやるべきこと」を再定義している点です。そして、自動化できる部分は効率化し、そこで生まれたリソースを、人間ならではの創造性やコミュニケーション能力が求められる「これからもなくならない人間にしかできない仕事」へと集中的に投資しています。
貴社においても、これらの事例を参考に、AI時代に淘汰される可能性のある業務を洗い出しつつ、より価値のあるサービスや商品を提供するために、どのようにDXを導入し、従業員のスキルアップを支援していくべきか、具体的な戦略を検討してみてはいかがでしょうか?
まとめ:2030年のその先へ!DXが拓く中小企業の活路と人材戦略
本記事では前後編を通じて、2030年問題がもたらす労働市場の大きな変化と、中小企業に与える影響について深く掘り下げてきました。
AIや自動化技術の進化は、一部の仕事のあり方を確実に変容させる一方で、人間だからこそ生み出せる価値や創造性が、ますます重要になる時代が訪れることを示唆しています。
前編で警鐘を鳴らした「淘汰の波」は、中小企業にとって避けられない現実であり、人手不足や後継者問題といった固有の課題と相まって、経営の喫緊の課題となっています。しかし、ここまで見てきた通り、この大きな変化は、悲観すべきことばかりではありません。DXを戦略的に推進することは、まさにこの難局を乗り越え、企業が未来を切り拓くための強力な活路となるのです。
DXは、単に最新のITツールを導入することに留まらず、業務プロセス、組織、そして企業文化そのものを変革する取り組みです。効率化できる業務はAIやRPAに任せ、そこで生まれたリソースを、より付加価値の高い「人間にしかできない」業務へ集中させていくことこそが、今後の企業成長の鍵を握るでしょう。
さらには、この変革期において、従業員のリスキリングを支援し、新しいスキルセットの習得を奨励することは、未来をデザインする上で不可欠な人材戦略となります。
2030年問題は、見方を変えれば、自社のあり方を見つめ直し、新しい強みを築く絶好の機会です。時代の変化をただ受け入れるのではなく、DXという羅針盤を手に、主体的に未来をデザインしていく経営判断と、それを支える人材への投資が今こそ求められています。
貴社がこの大きな変革を乗り越え、2030年のその先へと力強く歩みを進めるための一助となれば幸いです。
執筆者
株式会社MU 代表取締役社長
山田 元樹
社名である「MU」の由来は、「Minority(少数)」+「United(団結)」という意味。企業のDX推進・支援を過去のエンジニア経験を活かし、エンジニア + 経営視点で行う。DX推進の観点も含め上場企業をはじめ多数実績を持つ。